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44 久しぶり

 夏なのに珍しく涼しい今日。フィオナは未だにボーっとする頭を押さえながら公園のベンチに座っている。場所はウル王国王都から少し離れた町。


 依頼主と交渉するのは1ヶ月ぶりだ。今までは平然とやっていたことなのにやけに緊張する。アイテムボックスから取り出した飲み物を飲み、その清涼感で緊張感を流そうとする。

 フィオナが飲み口から口を離して視線を戻すと、公園で遊んでいた一人の子供と目が合う。何もないところから飲み物を取り出したフィオナが珍しいのだ。


 生意気そうだ。フィオナは子供に絡まれるのを避けるように視線を外す。だがその子供は興味津々に近づいていく。


「なあ、それどうやって出したんだ?」


「はあ? お前には関係無いだろう。早くどっか行け。しっし」


 邪険に扱うフィオナだったが、当の本人はどこかへ行く気は無い。


「うわ。お前女だったのかよ。てか、どうやって出したんだよ? 教えろよ」


(うるせぇ……。早く依頼人来ないかな)


 だんまりを決め込むことにしたフィオナだが、生意気な子供はその方法を知るまで去る気は無い。本当に面倒な相手だ。

 

「なあ、仲間に入れてやっからよー。教えろよー」


「仲間に入れんでいい。はやくどっか行け」


「なんだよ、優しくしてやってんのに。やーい、1人ぼっちー!!」


 子供はフィオナの座るベンチから去っていく。中々に鋭い言葉をフィオナにぶっ刺して。


「お前が傭兵だよな?」


「ああ。そうだが」


「やっぱりそうだったのか。子供とじゃれていたから違うとばかり」


「うるせぇわ」


 どこにでも居そうな男性。しかし最初から距離を縮めてくる。まあ、特徴らしき特徴はない。裏の仕事の人。フィオナが最終的に下した評価は当たらずとも遠からずだ。


「それで、依頼とは?」


「いきなり本題だな。まず、聞きたいのは傭兵ってのは金のためなら何でもやるのか? 裏切りも無しか?」


「傭兵っていうのは色々居る。その理由は様々だな。俺は金のためならある程度ならやる。一国を滅ぼすとかは無し。暗殺ぐらいならやるけど? 後、裏切りも無いな」


「やり手の傭兵ってのは態度がデカイのが欠点だな。もし、俺が雇った後で提示された金額以上の金額を積まれたら相手側に付くことは?」


「俺は無い。そこら辺は信用問題だしな。信用が無かったら独立傭兵なんて続かない」


 依頼主はふむと呟き、少し考えるような動作をする。


「雇うことにしよう。依頼を言ってもいいか?」


「依頼を受けるのが目的なのだから早く」


「暗殺を頼みたい。しかし1人ではなく何十人もだ」


 長くなりそうなことを感じたフィオナはベンチの端に座り直し、依頼主に座る様に誘う。「ああ。すまない」それだけを言うと横に座る


「もう少し詳しく」


「明後日の夜。ある酒屋にある団体が集まる。その団体の者を全員殺って欲しい」


「気付かれないように?」


「いや。暗殺とは言っているが、全員を始末してくれるのなら手段は問わない。ある程度までなら住民の被害も許容しよう」


「ならすぐにでも終わりますけど? 大丈夫ですか?」


「なに? 中々に難しいと思っているが?」


「簡単ですね」


 何を言っているんだ? そんな意味を含まったフィオナの発言は不気味だ。依頼する側からしてもここまで自信に溢れていると不安になる。


「ならお手並み拝見といこうか」





 依頼を受けて2日が経った日の夜。

 フィオナは件の酒屋が見える高台に居た。夏とは言え夜は少し寒い。かれこれ3時間ほどこの高台で待っている。

 合図は狼煙。殺すべき全ての人が酒屋に集まると別の高台から狼煙が上がる。そして今、その狼煙が上がった。


 フィオナがその狼煙を確認すると、ゆっくりと集中し始める。狂いは許されない。綺麗に目的地だけ滅せるように。


 黒い魔法陣が闇夜に紛れるように描かれる。ゆっくりと描かれるその場所は酒屋の真上の空。巨大な魔法陣が収縮していき、元々の1/10ぐらいまでに小さくなる。


 この魔法はその総量を変えることは出来ない。できるのは範囲を無理矢理魔法陣を歪ませて変えることぐらい。今、それをフィオナはしている。

 普通の魔法使い20人でも出来ないような圧縮を1人でする。


 頭がきりきりと痛み、魔法陣がゆらゆらと不安定に揺らめく。それを気合と根性で制御する。ピタリと感覚があったとき、それは放たれる。


 夜が一瞬、昼と錯覚するように明るくなる。星や月が身を潜め、人々が目を閉じる。次に目を開けたときには町の一部が消滅していた。詳しく言うなら酒屋がその穴を残して消滅していた。


 覗き込んでも底が見えない穴。町民達は知らない、この神の天罰のような現象を1人の少女が起こしたことをを。


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