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42 最終日

「今日で最終日ですね」


「ああ、そうだな」


 約束である1ヶ月の期間の最終日。夏休み最終日のような気分がフィオナを襲っていた。

 初めはだるいと思っていた今回の任務。だがよく考えてみるとフィオナになってから普通の人間とここまで長期間一緒に居たことなどなかった。

 フィオナにとっては良い体験だったと言えるような1ヶ月だった。


「いやー楽しかったですね」


「え? 別に……」


「オークション会場で助けてあげたり、暗殺者から助けてあげたり私が居なかったらオーナー死んでたんじゃないんですか?」


「見張りは俺任せ、常識を知らず冷や冷やさせられ、挙句の果てに無許可で庭を破壊して死体もそのまま。これ報酬減らしても良いんじゃねぇ?」


「俺的には可愛さ補正のブーストで報酬2倍になっても良いと思うんだけど」


「なにそれ斬新」


 2人は町を歩きながらも会話をしている。

 見た目は完全に主人と従者。なのに会話内容的に見るとその関係には見えない。


 今回の目的はフィオナの買い物だ。

 珍しい事でもない。前も何度かあったがクロエに対するお土産だ。お土産はクロエには尋ねず、フィオナの独断と偏見で決めることとなる。

 と言ってもここで変なものをお土産にすると後が怖いため、真面目に探す。


「どういったものが良いんだ?」


「さあ?」


 クロエからの提案により、お土産にはある程度の条件が決められている。

 1つ。あまり種類が被らないこと。(飽きるため)

 2つ。食べ物ばかりに集中させないこと。(太るため)

 3つ。ウケ狙いはほどほどに。(ウケを狙いすぎると拳が飛んでくる)

 それらのおかげでお土産決めには結構苦労する。今回もフィオナを大いに悩ませる。


「おい。無いものを使おうとするな。大変だろう?」


「……誰の頭が無いって?」


「お前」


「あるし!! じゃあこれはなんだ!? ええ?」


 フィオナは自分の頭を指差す。


「胴体のアクセサリー」


「見た目だけ良いじゃねぇよ!」


 久しぶりのフィオナの突っ込み役である。

 2人の会話が聞こえていた町民は静かに離れていく。理由は簡潔。めんどくさそうだからだ。


「まあ、真面目にすると誰に対するお土産なんだ?」


「上司」


「……剣? 棍棒?」


「俺の上司=暴力的って考えるの止めてもらっていいですか?」


「こんな暴力装置の上司とか、絶対魔王みたいな奴だろ」


「いや、小さいんで。女の子なんで。可愛いんで」(魔王みたいってか魔王だよ)


 フィオナは冷や汗を流しながら話題を反らそうとする。

 この話だけで、クロエが魔王ということがバレるとは思っていなかったが、やはり念の為である。もしバレたとしたら面倒というレベルではない。


「小さいんだったらそれこそアクセサリーとかでいいんじゃないか?」


「前回がそれだったんで。被るのはご法度なんですよ」


「めんど。なら食べ物は?」


「前にその上司が太ってきたって愚痴ってたんでアウトです」


「めんどくさっ。なら服は?」


「服。服か~。服なぁ~。どんな服を持っているのか分かんないなぁ」


「なんか珍しい服ならいいじゃないか」


 珍しい服。この地域に伝わる民族衣装は無いし。どうしたものか……。と思いながらフィオナは自分の服を見、二度見する。


「じゃあ、この服貰っていいですか?」


「ん? ああ。そのメイド服を土産にするのか」


「はい、あと水着とか作ってもらえませんかね?」


「水着とメイド服か。土産にしてはちょっと変だがまあ、良いんじゃないか?」


 運のいいことに、ベンの屋敷で働くメイドの1人に服を作るのが好きな者がいた。それを思い出し、ベンは快諾する。


「サイズはどうする?」


「俺に合わせて貰ったら大丈夫なんで」


「なら、町まで来た意味が無かったな」


「全くですね」


「提案したのはお前なんだが」


 これ以上この町にいる意味が無くなると、2人は徒歩で帰り始める。この町にベンの屋敷があり、中々に便利である。

 ちなみに町ではある日の夜、破裂音と何か硬いものが動く音。そしてその日の朝の悲鳴が聞こえたことが噂になっていた。一体犯人は誰なのだろうか……。





「お世話になりました!」


「お世話しました」


「ちょっと違いますよね?」


 朝早く。まだ太陽が顔を出して直ぐの頃。フィオナは出発のため玄関前に居る。

 フィオナはベンに挨拶をする。お見送りにはベン以外は居ない。

 それもそうだ。今回のフィオナが傭兵だということはベン以外は知りえないのだから。この後。ベンは適当な言い訳を作って、フィオナが去ったことを説明するのだ。


「それじゃ、次があったらお願いしますね。次は白貨8枚ですね」


「値上がりした?」


「いえ、初回サービスでした」


 フィオナはそこまで言うと、背中を向けてこの屋敷を去る。

 感慨深いような、何とも言えない感情が渦巻く中、屋敷を出て町を去る。


 ある程度まで町を離れると、羽を生やして飛び去った。


 すぐに見えてくる相も変わらず趣味の悪い建物。

 常人なら気持ち悪いという感情が出てくるだろうが、今のフィオナにとっては何より安心する建物だ。


「ただいま!!」


 窓を突き破り、クロエが居るであろう部屋に入る。


「お帰りなさい。久しぶりって感じですね」


 その日。クロエは珍しく、魔王の仕事を明日に繰り越してフィオナと一緒に過ごした。紅茶を飲みながらフィオナの話す体験談を聞く。

 相槌を打つだけのクロエだったが、その表情はまるでお使いから帰ってきた子供の話を聞く親のようだ。


 やがて夜の帳が下り、フィオナは頭をカクンカクンと上下に揺らす。眠たいのだろう。

 クロエは優しくベットに案内し、寝かしつける。すぅすぅと寝息が聞こえると、安心してクロエも自室に戻る。


 ふと、クロエはお土産を思い出す。

 話によると水着とメイド服らしい。さらにフィオナが自分のサイズを測ってまで用意してくれたとなるとクロエは嬉しさの余り、ちょっと着たくなる。

 もう寝た方がいい時間なのだが、少し着るぐらいなら大丈夫だろう。そう思い、鏡の前で着替える。


「あれ? 胸元が緩いんですが……」


何がとは言いませんけど、フィオナの方が大きいんですね。

私はどっちでもいいんですがね。胸より足のほうが……。

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