37 奴隷オークション(1)
フィオナはずっと馬車に揺らされていた。すでにお尻は悲鳴を上げており、フィオナが何度か体勢を変えた後、最後に長椅子の上に仰向けに寝転がるという暴挙に出た。
もし、この馬車のなかに他のメイドがいた場合は卒倒することだろう。主人であるベンが椅子に座り、その向かいにある長椅子にメイドが寝っ転がっているのだから。
「見た目は可愛いが、中身は残念の一言に尽きるな」
「ちょっとアホっぽい方が可愛いでしょう?」
「自分で言うか……」
しかしながら、寝っ転がったフィオナのスカートは不規則な馬車の振動で踊り、絶妙なチラリズムを発動していた。『それ』が見えなくても、常時見えている足だけでも大半の男の視線は奪えそうだが。
ベンも当然のことながらその対象に入っており、勝手に目がその白い足の付け根を追ってしまう。
しかしながらフィオナは全くそのことに気付かない。無自覚小悪魔といったところだろうか?
「ねえ、オーナー? 今日の予定って買い物だけですよね?」
「そうだな、今回の1ヶ月の予定はどうやっても外せないものだ」
「分かってますよ。そのために俺を雇ったんでしょう?」
フィオナの堂々とした態度に逆に心配になるベン。弱い犬ほどよく吠えるとは言うが、フィオナは強いのによく吠えるというめんどくさい犬だった。
挙句の果てに眠るフィオナ。ベンはチラチラと視線をフィオナの寝顔と窓の外をへ交互に向ける。
何かが来るかもしれないという恐怖によって窓を見て、こんな寝顔を見ることは2度と無いだろうという気持ちでフィオナの寝顔を見て、それと同時にフィオナを起こすべきなのだがこの寝顔を見ていたいというトリレンマがベンの脳内で発生していた。これではどっちが護衛なのか分からない。
馬車に揺られること約2時間。ようやく2つ先の町の郊外へたどり着く。一体そこで何の買い物をするのか。賢明な者ならすぐに気付き、そこに近づくことはしないであろう。近づいたら自分が取り込まれるかもしれない。
そう奴隷の売買をしているのだ。この町のほとんどが犯罪すれすれのようなことをしている者が多い。だがその中でもここ郊外は所謂スラム街だった。
別に奴隷が禁止という訳でもなかったが規制が厳しいのだ。そのため、目を欺けるスラム街がとても都合がよかったということになる。
ここスラム街にも馬車を止めるところはある。不思議に思えるかもしれないが、スラム街の金回りをよくしているのは奴隷を買う貴族。貴族を優遇しようとするのは当然と言えるだろう。
ベンは手慣れたように馬車を止め、料金と料金を渡した者にも別の金を渡し、スラム街を歩く。
「なんか、俺見られてる?」
「獲物を見つけたような目でな。良かったな、モテ期じゃねえか」
「損しかしないモテ期とか嫌なんですけど」
スラム街をベンと共に歩くとすれ違う男はほぼ全員が、厭らしい視線でフィオナを舐る。
普段から殺気には慣れているフィオナ。当然、今回のような視線にも慣れてはいたが、ここまで大人数から見られていることもほとんどなかったため、すこし挙動不審になっていた。
挙動不審となったフィオナを連れたベンは、最短のルートで奴隷のオークション会場へ向かう。最短という言葉に偽りはなく、本当にあっという間にたどり着いた。
「貴族のベンだ。今回も来てやったぞ」
「あれ? 後ろのメイドは新顔ですか?」
「ああ、そうだよ。何か文句でもあんのか」
「いえ、そういう趣味の方だったとは……」
「ロリコンじゃねぇよ!!」
受付を終えたベンはフィオナに顔を少し動かして合図をする。今回の合図は『早く来い』だ。
別段、道中の廊下で特筆するべきこともなく、オークションが見える観客席の位置まで移動する。
ここでフィオナを見た客の1/2は驚く。きっと出品される商品だろうと思っていたのだ。
ベンが適度にステージが見えるであろう位置に陣取るとフィオナがその隣に座る。そう座ったのだ。周りのメイドはぎょっとしたことであろう。メイドとは座った主人の後ろに立っているものなのだから。それを知らないフィオナは座った挙句、主人のつまみをポリポリと食べ始める。
「え? 主人の物を食べるの?」
「人類、皆平等!!」
「ここにきてるのにそれを言っちゃうか?」
ベンとフィオナが夫婦漫才をしていると、人が適度に集まってきたからかステージにマイクを持った男性が1人、舞台端から出てきて大声を発す。
「それでは!! 今回のオークション。開催いたします!!」
ちょっとだけ、今回は短めです。ち、違うんや!マレフィセントが面白すぎたのが悪いんや!!




