31 昨日の敵は今日の?
なんかさら〜っと書けたので投稿します。
「このたびはこちらの不手際によっていろいろと迷惑を掛けた。申し訳ない」
中央の男性は、芳樹達に頭を下げる。
「お、お止めください陛下! 簡単に頭を下げるなど!」
王の隣にいる美丈夫の側近がそれを制止する。王が直々に頭を下げるというのは相当な意味を持つということ。それほど、彼らに期待しているということなのだが、誰一人それに気付いた者はいなかった。
静寂がこの空間を包む。王は芳樹達の反応を窺っている。芳樹達は唖然とし、反応することができない状態に陥っている。
その静寂は扉を蹴り開けられることによって霧散する。この部屋にいる全員が突然の乱入者に目を見開く。
「なあ、金貨3枚ってどういうことかな?」
そこにはフードで見えないが、確実に怒っているであろうフィオナが立っていた。
「何事だ!? ってお前か。なんだ? どうした」
王はすぐに意識を回復させ、フィオナに問いかける。フィオナはまだ怒り、王に対しても強い口調で問いかけ返す。
「俺が提示したのは白貨3枚。どう聞き間違えたら金貨3枚になるんでしょうかね?」
といいずんずんとフィオナは王に近づいていく。しかし王の前にいる芳樹達には一瞥もせずに。王の側近は腰を落とし、剣を抜こうとするが鞘から剣が抜けず焦り始める。
「なんで剣が抜けないんだよ!?」
「鞘に入っている剣だけ凍らせたんで」
フィオナは王の目の前まで行き、金貨3枚を手から離し落とす。
「これぐらいのはいらない。俺が欲しいのはもっと大金。まさか、彼らは金貨3枚分の価値しかなかったってわけではないですよね?」
ここでようやく、フィオナは芳樹達を視界に収める。といってもチラと横目で流すぐらいだったが。王は元々から諦めているのかフィオナの問いに即答する。
「分かっている。おい! 白貨を3枚用意しろ」
といい、側近の1人に命令をする。命令を受けた側近は嫌々ながらもそそくさと部屋から出ていく。
ふっ、と息を吐いた王はフィオナをつつき始める。
「そういえばだが、お前が少女という噂は本当か?」
「どこからその情報を仕入れてきたのかは分からないが本当だな」
フィオナの答えに王は少し考えを巡らせる。そして続けて質問をする。
「ということは、アルカディア王国がお前に手を出したから滅んだというのもあながち的外れではないのかもしれんな」
王の安っぽい餌。それにフィオナは思いっきり釣られてしまった。
「どどど、どこでその情報をっ!?」
「……その反応で確信した」
フィオナは自分の頭を手で抑える。そのまま自己嫌悪に陥る。フィオナの自己嫌悪を払ったのは部屋に戻ってきた側近だった。
その側近はフィオナの傍まで行き、白貨を3枚手渡す。それを受け取ったフィオナは逃げるようにこの部屋から、敷いてはこの城から出ていく。
フィオナが部屋をさったあと、王はとても嬉しそうな笑顔を浮かべる。それは嫌な奴が去っていったときの笑みではない。まるで、好きな人と話せた男子中学生のような笑顔だ。
芳樹のクラスメイトの1人がおずおずと質問をする。
「陛下……は、先ほどの方をどう思っているのでしょうか?」
不敬罪と言われてもおかしくない質問だったが、王はそれに笑顔で答える。先ほどまでとは打って変わって、厳かな雰囲気を外して
「まず、どこから話そうか? 彼女はフィオナ、君たちを救った傭兵だ。1~2ヶ月前ぐらいからこの業界に入ってきたが、すでに彼女はトップクラスの傭兵に成り上がった。世界を巻き込んだ戦争。イリウム戦争において一国を滅ぼし、銀色の災厄ともよばれている。が、俺は中身はまだ小さな少女だと思っている。だから救ってあわよくば、てね。それに貴族が手を出そうとするような美貌を見てみたいな~ってさ」
▽
フィオナは城から退散したあと、町をぶらぶらと歩いていた。もちろん、ローブを外しクロエから押し付けられた服を着て。
「あ、これクロエのお土産にしとこ。安いし」
広場にある屋台の1つにあった青色の石を使っているアクセサリを手に取る。
「これください」
「あいよー。お嬢ちゃんかわいいからサービスしちゃうね」
「あはは、ありがとうございます」
フィオナは愛想笑いを浮かべつつ、2割ほど安くなったアクセサリを購入する。それを大事そうにポケットに突っ込んでいると
「あなた! どうしてここにいるの!?」
フィオナが声のした方を見ると、指をフィオナにさして睨んでいる女性。エルザがいた。
「どうしてって、ここにいたらまずいの?」
「まずいっていうか。ちょ、ちょっととりあえずこっちに来なさい!」
エルザはフィオナの手を取って走り、一番近くにある喫茶店に駆け込む。店員が驚いているのを気にすることもせず、人数を伝えそそくさと一番奥の席に着く。
「なんでここまで連れて来たの?」
「あなたにやられてからアルバートはリベンジしようとしているわ。そのアルバートがこの町にいるから見つかったら面倒でしょ?」
フィオナは頭を傾けて、疑問をぶつける。
「アルバートがいるってことは勇者一行もいるってことだよね。どうして別行動なの? そしてなんでリベンジの邪魔をしているの?」
エルザは少し、困ったよな照れくさいような笑みを浮かべる。
「実は、喧嘩しちゃったんだよね」
「どんな?」
エルザは苦笑しつつも、フィオナにことのあらましを話し始める。




