3 訓練
この世界には魔法というものがある。
魔法を使うためには適正が必要になり、それは先天的な才能だ。いくら努力しようと魔法が使えるようになるものではない。
魔法を使える者は少ないのにも関わらず、魔法を成長させるにも才能が必要になってくる。
努力次第ではそれなりの魔法を使えるようにはなるが、やはり天井がある。
果たして。フィオナには才能があったようだ。それも圧倒的な。
「よし、次は水魔法だ。大事なのは想像力だからな」
フィオナはたった20分で火魔法を出せるようになった。実際は魔法の才能があったとしても1日はかかるものなのだ。
それ自体は良いことなのだが、異常な才能を見たリライトは訓練の内容をもっとハードにしようと思ったためフィオナにとっては都合が悪いことだっただろう。
フィオナは前世のアニメなどの魔法をイメージしながら無理矢理魔法を生み出していた。そこには魔力のテクニックのテの字もなかったため魔力効率がとてつもなく悪かった。もちろん、それを気付かないリライトではなかったのだが。
「違うと言っておるだろう。そんな無理矢理にするのではない!」
「そんなこと言ったってどんな感じか分かんないし」
「ふむ。・・・そうだな。空気を吸うように魔力を体に集め、吐き出すように魔力を外に出す。そのときにイメージで魔法を作るのだ」
「なるほど流石! そんな例えができるのならさっさと言ってくれないと困っちゃうでしょ。全くも~」
「貴様焼き殺すぞ?」
先ほどの例えでコツをつかめたのか会話をしながらでも魔法を生み出せるようになっていた。もちろん魔力効率が遥かによくなった魔法を。
「このぐらいでよいか。よし、出かけるぞ」
「いってらっしゃい」
「貴様もだ。フィオナ」
「・・・もしかして、俺の名前ですかね?」
「不服か? フィオナ・アシュリー」
「とても素晴らしい名前だと思います」
だってねぇ。なんかめっちゃでかい魔法陣から意味が分からないぐらいの魔力が放出されている時に問われたらねぇ。あれ?これ脅迫じゃね?
▽
リライトにお姫様抱っこをされながら空を飛ばれ、目的地に向かう。かなりのスピードを出して飛んでいるのでフィオナはノックアウト寸前だ。さらにお姫様抱っこによってメンタルがゴリゴリと削られていく。
気分はマイク・タイソンとモハメド・アリから挟まれてボコボコにされている初心者ボクサーだ。
「着いたぞ」
「オロロロロロロロロロロ」
「吐くほどではないだろう」
リライトが少し心外そうにフィオナに問う。
想像してみてほしい。自分が男からお姫様抱っこを1時間され続けることを。さらに落ちないために自ら相手の首に手を回さないといけないのだ。
「うっぷ。ふう、ここでなにをするの?」
「ここには相当なレベルの魔物が多い。こいつらを狩ってレベリングすることが今回の目的だ。なに、安心しろ。私がぎりぎりまで痛めつけてからお前が殺せばいいだけだ」
どうやら最後に攻撃して殺した者が経験値は総取りできるらしい。この世界のパーティは苦労しそうだな。というどうでもいいことを考えながら魔物を探す。
「ああ、忘れていた。これを持っておけ」
リライトが渡したのは小さな水晶のようなものだった。
「これはなに?」
「それは、持った者の取得する経験値を吸い取って、1年以上たった後使うと吸い取った分の経験値を倍にして戻す。という代物だ。大事に扱えよ」
「りょーかい!!」
フィオナは軍隊の敬礼のようにしながら肯定の意を伝える。実際、レベリングという戦闘にテンションが上がっていたのだ。
「まずは、あの蜘蛛からだ。俺が先にいって足を全て斬り落としてくるから少し待っていろ」
といい、リライトは俺をお姫様抱っこしたときの3倍ぐらいのスピードで飛んでいき、一瞬のうちに足を全て斬り落とす。体の8か所から紫の血を出しながら、高層ビルぐらいの蜘蛛が倒れこむ様はまるで地獄の風景のようだ。
「よし、いけ」
いつの間にか戻ってきていたリライトがフィオナに向かって言い放った。
え? どこに行くの? いやいや無理だよ無理。俺には無理だって。だってあれ……。
▽
実際は3日ぶりだが彼女にとっては1年に感じただろう。3日目にもなってくると、目と心が死んだ状態で作業のように淡々と日本でいう害虫を、死にかけの害虫を殺していくのだ。つまりムカデやGやゲジゲジが100倍ぐらいになったやつだ。
「どうだった? 初めてのレベリングは」
「楽しすぎて死ぬかと思いました」
嫌味を聞いたリライトは微笑を浮かべた。それはきっと日本の5歳児でも泣き出すであろう微笑だった。
「そうか、なら安心した。魔力の訓練と、レベリングを一週間のローテーションにするからな」
は? は? ……は?