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29 新たな転生者

 彼こと、小早川芳樹はこの現状に呆けていた。

 その日はいつも通りの午後の授業が行われていた。ようやく、修学旅行で消息を絶った親友の宇野卓也が隣に居ないのが日常となっていたとき、教室が急に光に包まれたのだ。


 そして目を覚ますとこれだ。コンクリートジャングルから自然のジャングルに瞬間移動。クラスの皆は様々な反応をする。奇声を上げる者、恐怖でへたり込む者、ウロウロと周りを徘徊する者。これらの反応が8割を占めていた。

 いつもクラスの端っこにいたグループはテンションが上がっている。芳樹が耳を傾けなくても「異世界キター」と言っているのが聞こえてくる。DQN達は嫌な笑みを浮かべて周りを確認している。


 芳樹は改めてこの場を確認する。木々が生い茂って10メートル先も見えない。何処からか、獣の唸り声が聞こえてくる。見える範囲のクラスメイトを数えると39人いることから恐怖で走って逃げた者はいないのだろう。

 芳樹はクラスメイトの数を数えながら、そういえば卓也は異世界の話をよくしていた。と昔ことを思い出していた。


 パニックになっていた芳樹のクラスメイトも大半が落ち着きを取り戻し、これからのことについて話し合っていたときに、1人が叫ぶ。


「なあ!? なんか頭の中で鳴り響いているんだけどこれ何!?」


 クラスメイトの1人が叫ぶと同時に、近くにあった木が動く。いや、違う。周りの木よりも一回り大きい木、だがそれは木ではなかった。


 それは、全身の鱗にぬめりを纏わせ、木漏れ日が反射して一層気持ち悪さが際立っている。今までは影になって彼らは気付いていなかったが、色は緑と赤のストライプだ。芳樹達が上を見上げると、爬虫類独特の瞳が芳樹達、獲物を見ていた。チロチロと舌を出し入れし頭を下に向けている姿はまるで死神の鎌のようだと芳樹は感じた。それは巨大な蛇だった。


 圧倒的な存在。その存在から放たれる死。彼らの中で動ける者はいなかった。失神する者はいないが、全員が蛇を見上げている。足どころか身体の一部を動かすこともできない。

 自分の意識で動かすことはできないのに、自分が意識していないのに身体が小刻みに震える。


 蛇が芳樹に向かって血のように赤い口が迫っていき、芳樹をその口で喰らう直前で、口が止まる。いや、止まったのは口だけではない。徐々に蛇の目に輝きが無くなっていき、そして生命活動も止まった。

 

 芳樹はまるで夢を見ているような気分だった。ここにいるのも夢のようなのに、さっきの巨大な蛇が氷漬けにされて、それを行ったであろう者が目の前に立っているのだから。

 しかし、それにしては……小さい?


 


「ふう、紙一重だった」


 フィオナはため息を吐く。

 今回の依頼はまたもやウル王国。異世界から転移させられた転移者を全員、生かして見つけること。普段なら、1つの部屋に全員転移できるのに、身内のごたごたで転移場所を変えられたらしい。無能共め、フィオナは心の中で悪意の言葉を放つ。

 

 フィオナは転移者が全員いるかどうか数え始める。話によると転移者は39人らしいが、……いるっぽいな。

 数え終わったフィオナは空に向かって炎を放つ。これが見つけたときの合図だ。

 芳樹は現実離れした光景を見ながらも、フィオナが放った炎を見て花火みたいだと思っていた。


 さっきの合図で回収部隊が来るはずだ。おおよそ10分。その間にフィオナがしなければならないことは2つ。全員の安全を確保すること。そして使えそうなスキルを持っている奴がいたら、ちょ~っとばかし『借りる』ことだ。

 

「おい! 全員一か所に集まれ!!」


 フィオナの言葉にオドオドしながら彼らは中央に集まる。フィオナがいくら小さいからといったって、自分達を喰おうとした化け物を一瞬で殺したのだから、馬鹿でもない限りはフィオナの言うことを聞く。

 ただし、どこの世界にも馬鹿はいるものである。

 命令口調のフィオナにイラついたのか、自分よりも小さいフィオナを舐めたのかは分からないがフィオナに食って掛かるDQN達。


「おいおい。お前は何の権限があって俺達に指図してんだ?」


 芳樹は内心焦る。他のクラスメイトもそうだろう。改めて言うが、フィオナは彼らを蹂躙しようとした生物を一方的に殺したのだ。そんなのに抵抗したら殺されるだろう。

 だが彼らの思いとは裏腹にDQN達はまるでフィオナを倒す手立てがあるかのような余裕の笑みを浮かべる。


「俺、分かっちゃったんだ~。魔法の使い方がさっ!!」


 DQNの1人が、フィオナに向かって小さい火の玉を出す。が、それはフィオナに当たる前に明後日の方向に飛んでいく。


「な!? どうなってんだよ?」


 火の玉を出したDQNは酷く狼狽する。自分が想像していた魔法と大きく違ったし、それが当たらなかったことも、予想以上の疲労が身体を襲ったことも、なにもかもが想定外だったのだ。


「あれれ~? もしかして、魔法さえ使えれば勝てると思っちゃってた? 君ってそ~んな頭が弱い人だったんだね。魔法は頭が大事だよ。頭が弱い君が勝てるわけないじゃん!」


 フィオナは自分に向かって魔法——と呼べるのか分からないレベルの代物——を出したDQNに顔を近づけて思いっきり馬鹿にする。

 DQNは近くに来たフィオナを殴ろうとして拳を振り上げようとするが、ここにきてようやく自分の腕が動かないことに気付く。なぜなら先ほどの蛇のように氷漬けにされていたのだから。


 フィオナが氷漬けにされたDQNに手を伸ばし、顔に触れる。DQNはビクッと身体を一瞬、震わす。そのまま2秒が経過し、フィオナは初めてスキル吸収を使いスキルを奪う。

 なにもエフェクトは無かったな。これなら相手から気付かれなくて済むかもしれない。フィオナがスキル吸収について考えていたとき、フィオナが業火に包まれる。


 フィオナが業火に包まれるのを見ていた彼らは、驚きつつも目の前で脅威とされる存在が倒されるのを見て安心していた。

 だがそれは裏切られる。業火に焼かれたはずのフィオナはさも当然のようにその場に立っていたのだから。フィオナの身体には傷1つもないが服は焼かれ、白く綺麗な皮膚が見え隠れしている。

 フィオナは後ろを振り向き、不機嫌そうになにもいないところに話しかける。


「なんのつもりだ? トルナード」

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