表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/48

28 対魔法

 まるで虫のように地に落ちていくドラゴンを見てトルナードは言葉を失った。それもそうだろう。軍を壊滅状態にまで追いやったドラゴン達を子供が一瞬で片づけたのだから。

 ドラゴンに殺された兵士達の命が馬鹿らしくなってくる。だが、この者が来なければもっと大勢死んでいただろう。複雑な心境のトルナードだった。


 ドラゴンを落とされ、敵軍は浮足立っていたがすぐに態勢を立て直す。相手は優秀だな。フィオナは悪態付く。が、トルナードは冷静に言う。


「憶測だが、ソレールの誰かが先頭に立ったんでしょう。まったく、面倒な奴らですね」


 トルナードとフィオナは嘆息する。と同時にフィオナは湧き出た疑問を尋ねる。


「もしかしてですけど、敵の一掃ってソレールも含まれていますか?」


「当たり前でしょう? 敵の主力さえ片づけてくれれば、後詰めの部隊で殲滅できます。よろしくおねがいしますね」


「後詰めがいるのなら出しておけば、全滅は無かったのでは?」


「いいえ、結果は変わりませんでしたよ。なら投入する時期を見計らう方が賢明でしょう? もしかして先の部隊がかわいそうとか言うつもりはありませんよね?」


「傭兵にそんな優しさはない」


 フィオナは吐き捨て、最前線の敵軍。今まではバラバラに敵を各個撃破していたが、今は大きな三角形になっている。その三角形の頂点にそれはいた。

 銀色の腰まである髪に銀色の装備。装飾をしている銀色の剣、それを掲げると三角形がフィオナのいる本陣へ猛然と向かって来る。


 フィオナはそれを無感動に見る。そして作業的に両手を空中で円になるように回転させ魔法陣を作る。大気が震え、濃ゆすぎる魔力でビリビリと身体が軋む。あまりにも魔力が濃すぎたのかフィオナの周りで何人か人が失神し倒れている。


 魔法陣から放たれた真っ黒の柱は、敵を先ほどのドラゴンのように喰らおうとする。敵軍のど真ん中に着弾し、その衝撃は敵軍全体を蹂躙する。砂埃が舞う。


 敵の本陣は笑みを浮かべていた。それは諦めの笑み、ではない。


 砂埃が収まったとき、それは姿を現した。いや厳密にいうとそれらが、だ。敢然と輝く銀の集団。黒の柱が蹂躙する前よりは数を減らしているものの、半分も減っていない。

 

 苛立つフィオナだったが自分に対して冷静に、と言い聞かせる。

 ————よく見れば、生き残った奴らは全く同じ鎧を纏っていないか?

 フィオナの言葉の通り、黒の柱の蹂躙から回避した者どもは全員銀の装備をしていた。つまり、銀の装備には魔法を無効にする効果があるってことだろう。フィオナはそう結論付ける。


「なあ、あれぐらいの数なら後詰めでやれるか?」


「正直厳しいでしょうね。あれの2/3ぐらいならまだしも……」


 今度は、フィオナだけ嘆息する。魔法が通じない以上、どうしようもない。フィオナは魔法以外で敵を倒す方法を知らなかった。

 どうする? 魔法が聞かないのから闇も、聖も、火も、水も、風も、土も。土? ……あった。がそれが可能かどうかフィオナには分からなかった。魔法という定義になり、効かないんじゃないか? だが、それ以外の方法を思い浮かばない。ならやるしかないだろう。フィオナは自分を勇気づける。


「分かりました。敵主力を全滅させましょう」


「出来るのですか!?」


「出来はしますが、時間稼ぎが必要です。敵をその場に20秒ほど、くぎ付けにしてもらわないと」


「後詰めを投入しましょう。その代わり、失敗なんかしないように」


 トルナードはフィオナにくぎを刺すと、本陣にいた後詰め部隊を全員出撃させる。銀の三角形とぶつかる瞬間、砕ける。敵がではない、味方がだ。

 敵の三角形は先が少し崩れたが、それだけだった。味方は三角形とぶつかる瞬間に吹き飛ばされ、赤い液体を噴き出しながら砕け、濁流に飲み込まれていく。


 その数を圧倒的なスピードで減らしている味方軍だったが、目的である30秒の足止めはしっかりと果たしていた。

 トルナードはそれを嫌そうな顔で見て、フィオナは事務的に見ていた。敵の座標と、使うべき魔法のx座標とy座標、そしてz座標の位置を必死に計算をして範囲を測っていた。


 後詰め部隊の1/3が死んだとき、約束であった20秒がやってきた。20秒が立った瞬間。敵がいなくなった。敵が立っていたはずの地面と後詰め部隊の半分を道連れに。

 トルナードは半分になった後詰め部隊から目を反らしながらフィオナに問う。


「なにをしたんですか?」


「敵がいた地面を100メートル分。根こそぎ消滅させました。そのまま、奴らは浮遊感に襲われてドボンってわけです」


 フィオナはジェスチャーで手を握りしめる。それを見たトルナードは呆れたような顔をした。


「一体、どのくらいの魔力があることか。あなたとは敵対したくないですね」


 本心を言ったトルナードは、少し考え込んだ後、続けて言葉を発する。


「もう、これであなたの依頼は達成です。これが陛下から預かっている報酬となります」


 といい、トルナードは重たそうな袋をフィオナに手渡す。それを両手で持とうとし、だが持ち切れずフィオナは地面に落とす。地面に落ちたそれを、転がしてアイテムボックスの中に入れる。


 そのまま、フィオナは笑顔で戦場を後にする。戦場から離れるときに満面の笑みでトルナードに手を振っているフィオナはどう見ても、5分前に敵を大量虐殺したものとは思えないような天使の笑みだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ