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26 結末

「アルラか。これはなんの冗談だ?」


 アルラにフィオナは怪訝な顔をして問いかける。アルラはずっと嬉しそうにしている。フィオナは率直に気持ち悪いという感想を持った。


「冗談なんかじゃないよ。俺はお前が欲しかったんだ」


「言っただろ。俺は人の下に付かないって」


 アルラは顔を笑みで歪める。まるでペットを見ているような視線をフィオナに向ける。


「当たり前だろう? 対等な立場で構わないんだから」


「それが傭兵と依頼主の立場だろう?」


「違うなぁ。夫と妻の立場だよ」


 フィオナに寒気が走る。ぞわり、というまるで死人の手が触れたような感覚を背中に感じる。背中から伝導し、冷たくなった脳でフィオナは必死で考える。

 ————こいつは俺と結婚しようとしてんのか!?

 

「は? 俺を妻に? 冗談も休み休み言え」


「冗談じゃないんだよ。冷静に考えてみ。お前は逃げることも拒否する権力もない。俺がするって言ったら決定事項なんだよ」


 フィオナは脳を『cold』から『cool』に治す。

 アルラがいるってことはここはアルカディア王国か。だが、こいつ1人を排除したところで完全な安全が来るとは思えない。もう少し様子見をするか。


「君に触れるのは許せなかったから俺が城まで運んだんだよ。」


 なるほど、ここはアルカディア王国の首都の城の中か。多分だけど、地下牢じゃないか?

 フィオナはアルラとの会話でこの状況を掴もうと思っていた。そのために話を続ける必要があった。新たな作戦だ。


「上に陛下たちを待たせているから早めに行こうか。おい、連れていくぞ」

 

 作戦失敗。

 アルラは、どこからきたのか2人の騎士に命令をする。フィオナの手錠に鎖をつなぎ、それをアルラが持つ。騎士はアルラの前とフィオナの後ろに陣取っている。前から騎士、アルラ、フィオナ、騎士といった順番だ。


 フィオナはそのまま、王城の廊下も歩く。上に向かっているようだ。たまにすれ違う侍女から憐みの目で見られ、フィオナの恐怖心が煽られる。

 

 フィオナがこの先のことを考えていると、一目で王様がいる部屋の扉だと分かるような扉が見えてくる。アルラは当然のようにその扉に手を掛け、開ける。

 入ったフィオナが真っ先に感じたのは視線だった。嫌な視線だ。好意的な視線は1つもない。この部屋には貴族らしい者が20人ぐらいいる。

 鎖で引っ張られながらフィオナは王の前まで連れていかれ、跪かされる。

 

「この者が、今回の皆が協力した結果か?」


「はい、俺の結婚相手です」


「両親に了承は貰ったのか?」


「もらう予定です」


 王とアルラが話している内容でフィオナはドン引きする。それと同時に、ここにいる者が共犯者ということをフィオナは理解する。

 フィオナが情報を整理していると、アルラがフィオナに向かって来るのを感じ取る。


「とりあえず、接吻でもしましょう。愛し合っている証として」

 

 やばい、こいつはやばい。フィオナの頭の中では危険察知が発動していないのにアラームが鳴り響いている。

 というより、貴族なのに周りの目があるなかでキスなんてしていいのかよ。フィオナはふと思ったがそんなことはすぐに思考の外側に追いやる。

 俺を自分の物にするつもりだと、フィオナはアルラの目を見て思う。アルラの目は狂っていると。


「別に愛し合ってないから、嫌」


「そうやって俺を困らせて何をしたいんだい?」


 アルラはフィオナに近づき、フードを捲る。周りの視線に欲情が入り混じり、ほぅ、と空気が乱れる。きっとこの中の何人かは、この時点でフィオナをどうやって手に入れようか熟考していただろう。

 それほどに、男にとってフィオナとは甘い果実だったのだ。


 フードを捲ったアルラは、そのままフィオナとキスをしようと迫る。フィオナは跪いた状態から後ろに倒れ、ズルズルと足を使って後ろに下がっていく。このとき、フィオナは影化のスキルを使用していた。が10秒の発動準備時間がある。


 ゆっくりと下がっていくフィオナを愛おしそうに、アルラはフィオナのスピードに合わせてゆっくりと迫っていく。猛禽類のような目をして。

 

 後ろに下がっていたフィオナだが、トンと背中になにかがぶつかる衝撃が走り慌てて後ろを見る。

 フィオナの後ろには、獲物を見るかのように見下す貴族が立っていた。貴族はそのまま、フィオナに後ろから身体をフィオナの背中にもたれかかる様に触れる。

 前からはアルラが嫉妬しながらも、キスをしようと迫る。後ろは貴族が抱き着こうとする。もうすでにフィオナは正常な思考ができなくなっていた。


 あと少しで唇が触れ合う。というところで、フィオナの姿が消える。カランという金属と金属が触れあう音が部屋に響く。

 アルラが振り向いてフィオナを見つけたのと、意識が途切れたのはほぼ同時だった。



 その日、アルカディア王国の首都が10万人の住民と一緒に地図から消滅した。


 

 フィオナは自分がどうやって帰ったのか、はっきりと覚えていなかった。クロエは今回のことに触れないように、フィオナは今回のことを忘れるように依頼に没頭した。3日後にはクロエがアルカディア王国が滅びたことをフィオナに教えてくれた。どうやら各国の植民地にされたらしい。


 自然界で猛獣が一匹、頭をなくして死んだら。倒れ、蛆が湧き、そして最後には他の猛獣に食べられる。それがこの世界の理。フィオナは自分をそうやって納得させ、今回の依頼主のところに向かう。

 だが、クロエは見てしまった。フィオナがいた場所に一滴の雫が落ちた後を。


なんかそれっぽい感じで終わりましたが、次の話からはいつも通りのテンションのフィオナです。2~3話で完結する話ばっかりなので。

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