24 絡み
「それでは、いい取引をありがとうございました」
「ああ、最後に。もし、これ以上の土地が欲しい場合は隣の領主を尋ねるがいいです。あれは愚かですよ」
「朗報をありがとう。それは2度と来ないでってこと?」
「親切3割、厄介払い7割ってところですかねっ」
キリアは捨て台詞を吐き、フィオナとクロエを部屋から叩き出す。クロエとフィオナはポカンとしたあと互いに見合う。
「まあ、目標は達成ってことで」
「いいんじゃないですか」
クロエの先導でこの館から出る。
フィオナとクロエは出る途中にいる門番に生暖かい視線を浴びせる。
「おい? なんでお前あんなに見られてんだよ。」
「俺に惚れたんじゃね」
「はっ」
2人の門番のやり取りはフィオナたちに聞こえることは無かった。意識はすでに昼ご飯に重点を置いていたからだ。
「どうしますか? ちょっと早いですが昼ご飯でも食べますか?」
「いや、ちょっと早すぎるし。城に戻ってからにしない?」
「それもそうですね」
クロエは足の向きを食事処から町の出入り口に渋々、変更している。それを見てフィオナは苦笑した。
「ねえ、君たち。一緒に遊ばない?」
「ひゅー、かわいいじゃん」
フィオナとクロエがいちゃいちゃしていると、2人の男が彼女らに纏わりつく。改めてだか、クロエは弱い男は嫌いだし、フィオナに至っては女が好きだ。当たり前だが。
つまり、どう頑張っても男に振り向くわけがないという訳だ。
それどころかフィオナはクロエ大好きだし、クロエもフィオナが大好きなのでナンパしようものならどちらかに殺されてしまう。まあ、フィオナもクロエも理性はあるほうなのでこんな場所で暴れたりはしない。
「「悪いけど興味ないから」」
フィオナは彼らを睨みつけ、クロエは心底めんどくさそうな顔をしている。どうする? といった感じで互いに見合わす。
(今度こそ殺るか?)
(もう少し人が少なかったらいいんですけど、今はまずいですね)
フィオナとクロエは視線で会話をする。
「ねえ、つれないじゃん」
「あーもう、無理矢理連れていかね?」
あーあー、どんどんめんどくさくなっているぞ。フィオナは心の中で吐き捨てる。
フィオナは横にいるクロエの腰をやさしくたたく。クロエがフィオナの手を見たのを感じ、フィオナは手で会話をする。
合図 したら 走る
続けてフィオナは手でカウントダウンをする。
3 2 1 「GO!!」
フィオナは氷で男達の足と地面を固定する。と同時にクロエの手をつかんでスピードを抑えながら走る。後ろを確認するが間抜けにこける男達しか見えない。
なんか愛の逃避行みたいでいいね。フィオナが思ったのはそんな下らないことだった。
▽
フィオナとクロエはすでに魔王城に帰る途中だった。空を飛び、下を見る。眼下には来た時と全く同じ光景が広がっている。自然の表情は変わらないが心なしか心配しているようにフィオナは感じた。
「ところでさ」
「はい?」
「スキル吸収って『生きている』者に2秒以上触れていないといけないんだよね?」
「はい、そうですね。それがどうしましたか?」
フィオナはずっと思っていた疑問を聞く。
「俺って遠距離から戦うのにどうやってスキルを吸収するの?」
「……宝の持ち腐れですかね」
フィオナが何回も繰り返し考え、何回もたどり着いて、しかし結論付けたくなかった答えをクロエは簡単にいう。
いたたまれなくなったクロエは幾つかの案を出す。
「剣を使ってみては?」
「まず剣を持てない」
「たまに接近するでしょう? それで」
「流石に2秒以上は無理だ」
「諦めてください」
「そうなるよね」
フィオナはガックシと肩を落とす。速度も高度も落とさないが。
と、続けての疑問を聞く。
「影化ってどうやって使うの?」
「いつも通りスキルを使えばいいじゃないですか」
「いや、使おうとしても全然発動しないんだけどさ」
クロエは本当に困ったような顔をしている。クロエにとってはどうやって腕を動かしているの? と聞かれているのと同じだからだ。
いや、もしかしてスキルの使い方の問題じゃなくて、影化のことを理解していないんじゃないんですかね。クロエは大前提をフィオナに話す。
「影化っていうスキルは影になるためには10秒必要なんですよ。待ってますか?」
「え?」
「やっぱり」
クロエは空を見上げ嘆息する。フィオナは逆に地面を見下ろしため息を吐く。
「フィオナはいまいちスキルに関して分かってないんじゃないですか?」
「そんなことはない……はず」
「不安が残る言葉が最後にあるじゃないですか」
「今までだって結構スキルを使ってたからね! 例えば、飛行、アイテムボックス、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、闇魔法……」
「5/6が戦闘じゃないですか!?」
「あはは」
フィオナは乾いた笑いを口から出す。
「これは、私がなんとかするしかないですね」
クロエが小さな声で呟いた。フィオナは聞こえなかったが、ブルッと身震いをする。
フィオナは今さっき感じだ悪寒を忘れるように呟く。
「こんな休日も悪くないかもね」




