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23 交渉

 クロエがこの町に来たのはここの領主であるキリア・インセインに会うためだ。彼がここ一帯を取り仕切っている。そのため土地を買おうとした場合は、彼と話を付ける必要があったのだ。


 しかし、クロエはキリアが嫌いだった。何がとは言えないが気持ち悪いような、絶対に受け付けないのだ。そのため、早く切り上げようとするクロエはいつも取引では不利な条件を飲むしかなくなる。

 だが、フィオナはキリアが苦手とするタイプだろうとクロエは推察した。だから今回連れてきたのだ。



 意外と町の入り口から領主の館の門までは結構な距離があった。やっと館の門が見えたときクロエは嘆息する。

 おかしいわね。昔はここまで距離があったかしら。すぐにクロエは自分の考えを飲み込む。今はそんなことを考えている場合じゃないと。


 門番は見える範囲で2人。どちらに問いかけても同じそうとクロエは思い、近いほうに問いかける。


「もしもし、門番さん? 門を開けてくださらないかしら?」


 門番はクロエからの問いでクロエとフィオナを視界に捉える。


「へえ、かわいいじゃん。ねえお兄さんと一緒に遊ばない?」


 まず、会話にならない。そして会話にならない会話をしてようやく前までの門番ではないことにクロエは気付いた。

 横にいるフィオナがクロエに小声で耳打ちする。


「オーケー発動まで3秒、場所指定はまかせろ。粉々にしてやる」


「……だめですよ」


 フィオナにとってこの門番とは天使に群がる蝿のような存在だと認識していた。ふしゅるるーと門番に威嚇をしているフィオナは猫のようにしか見えないが。

 クロエも許可しかけたのを、理性でぎりぎり抑える。


「まあ、そんなのはどうでもいいんで領主の元に連れて行ってください」


 クロエは門番に自分から握手をする。横でフィオナが絶句し、声にならない声を出している。クロエは握手のときに金貨を3枚門番に握らせる。


「……はぁ。ほら、こっちだ。おい! 門を開けるぞ」


 門番は隣の門番に荒く指示をし、嫌々ながら門を開ける。金を握らせた門番が案内をするために先を行く。それにクロエとフィオナはついていく。

 フィオナはこの通路に関しても、昨日王城の中を歩いたため全くときめかなかった。贅沢な奴だ。

 

「ほら、この部屋だ。俺はここまでしか案内できない。まあ、幸運を祈っているぞ」

 

「はいはい、次からもよろしくお願いしますね」


 クロエはフィオナに視線で合図する。


「次からは、俺……私が来るからよろしく」


 フィオナはポケットから金貨を2枚、門番に手渡す。門番は満足そうにし、ここまで来た道を戻っていく。門番に金貨を手渡すときにフィオナは、袖が捲れてニップール帝国の紋章が門番の手首に描かれているのが見えた。 


「それじゃ、いきましょうか」


 クロエは扉を開けて入る。フィオナはクロエの視線に急かさせて慌てて入っていく。

 

 その部屋は7×10メートルの大きさで、中心には机をそれを挟むようにソファーが2つある。その机の奧、扉の反対側に執務机が鎮座している。

 

 そいつはソファーに座っていた。黒い。フィオナが感じたのはただそれだけだった。吸い込まれそうになるが、吸い込まれたら最後、出てくることはできないだろう。まるで黒い罠だ。

 

「私の目に飲み込まれませんでしたか。なかなかの素材じゃないですかぁ」


「汚い目に飲み込まれるほど私は物好きではないので」


 フィオナと軽いジャブを打ち合ったキリアはクロエに話を振る。


「ひひっ。今回は面白い連れがいるようで」


「かわいいでしょう? お気に入りです」


「私としてはあなたと会話したかったのですがねぇ」


「私は絶対に嫌なので」


 クロエは心底嫌そうな顔をして答える。半分は演技だ。


「おやおや、どうしてですか?」


「淡水魚が海で生きていけないでしょう?」


「魔の地で生きる妖精が居ると聞いたことがあるのですがなぁ」


 クロエとフィオナは表情の1つも動かさない。キリアに関しても無表情だ。

 場を支配するのは、フィオナでもクロエでも、ましてやキリアでもない。沈黙だ。最初に動いたのはキリアだった。


「まぁ、いいでしょう。何を買いたいのでしょうか? きっと連れがでしょう? お金のおいしい匂いがしますからねぇ」


「鼻『は』よろしいようで」


「鼻『も』ですよぅ」


 フィオナがつつくが、キリアの表情は代り映えしない。


「今回、買いたいのは土地です」


「土地? ですか」


 キリアの毒が抜けて、困惑が毒と混じっていく。キリアの困惑を意に介さないようにクロエが地図を広げていく。


「この森と、その東側のここ一帯が欲しいのですが」


「結構欲しがりますねぇ。金貨200枚でどうでしょうか?」


 フィオナはチラリとクロエを見る。クロエは渋そうな顔をしている。フィオナが使える全財産は金貨145枚ある。結構な大金だが、全然足りない。

 

「もう少し安くしてもいいんじゃないですか?」


「いやいや、あそこは資源がたくさんあるのでね。これでも結構譲歩しているんですよ」


 クロエはフィオナにだけ聞こえるような小さな声で囁く。


「もっと適正価格は安いはずです。粘ってみましょうか」


 フィオナはこの屋敷にいた門番について問う。

 『それ』を聞いたクロエは底意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「それは使えますね。面白そうです。やってみましょう」


 フィオナもクロエのような底意地の悪い笑みを浮かべながらキリアを問い詰め始める。


「そういえば、門番がいましたよね?」


 キリアの表情が今回の会話で初めて曇る。


「それがどうしました」


「門番さんの手首にニップール帝国の紋章があったんですが?」


「……そうですか。全く気付きませんでした」


 キリアの顔色がどんどん悪くなっていく。クロエは抑えきれないのかニタニタとキリアを嘲笑っている。

 

「ああ、土地の金額を安くしてくれないと、悲しくてニップール帝国に話してしまいそう」


「ぐぐぐぐう…………ふう」


 キリアはあきらめたようだ。ここまでくるとかわいそうにも見えてくる。


「口止め値引きを含めて金貨50枚でいい」


「やさしいですね」


「ここまで値引きしてもらえるとは思いませんでした」


 フィオナとクロエが口々に言うのを聞いてキリアは顔を歪める。追撃のようにクロエが言葉を続ける。


「ところで、なんで門番さんを庇っているんですか?」


「友人のような奴だ。で、向こうでいろいろやらかして私を頼ってこっちへ来たんです」


「鬼にも優しさってあったんですね」


「あなたたちがその優しさに付け込むから鬼は優しさを捨てていかないといけないんですよ」


どう頑張っても取引がヨルムンガンドの劣化版になっちゃってる気がする。

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