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17 探り合い

 フィオナはニップール帝国の公園で1人、ベンチに座って今回の依頼人を待っていた。前回は依頼人を待たせていたフィオナだったが今回は待つ側だ。

 ちょっと遠くで遊んでいる子供を見てフィオナはほっこりとする。


 今のフィオナの恰好は、旅の者が着るような大人用の薄い外套———もちろん白———を着ており、お面もしている。そのような恰好なので、子供たちはフィオナからちょっと離れたところで遊んでいるのだ。


 しかしそれにフィオナは気付かない。すでに集中しているからだ。

 何に集中しているか、それは今回の依頼についてだ。

 俺は最近の依頼で誰を殺した?ゾディアックだ。で、今回の依頼した国は?そうゾディアックを所有しているニップール帝国だ。

……俺、仇討ちされんじゃないのか。


 フィオナは5~7割かの力しか出せない。筋肉痛が怖いからだ。依頼が来たらとりあえず受けておくスタンスのクロエなので、筋肉痛で休むなんてことができない。なるほどこれが社畜か。


 フィオナの思考がちょっとおかしい方向に全速前進していると、ゆっくりと自分に近づいている男性に気付く。

 

「あなたが今回の依頼人で?」


 男性は優しそうな笑顔を顔に貼りつけてフィオナに話しかける。


「はい、そうです。依頼を話したいところなのですが立ち話も嫌ですね。向こうのにいいカフェがあるのですが?」


 フィオナには気を配っている幾つかの言葉がある。その一つが新しい場所指定の言葉だ。罠の可能性が一気に高まる。


「立ち話は嫌ですね。なのでどうぞ」


 フィオナは腰をずらして、ベンチのスペースを開ける。

 男性は面白いものを見たような、心底嬉しそうな表情をする。そしてフィオナの横に座り、話し始める。


「今回の依頼を説明しましょう。今回の依頼はニップール帝国に向かっている勇者一行の足止めです」


「足止め? 討伐しろとかは言わないのでしょうか?」


「はい、勇者がニップール帝国の領土内で死んだと報告されては不利です」


「足止めする理由を聞いても?」


「それを話す義務はないです」


 フィオナは聞いておきたかった。さまざまな国の情勢を知るのは大切なことだと、情報がこの業界で1番大事だと分かっていたからだ。


「勇者の足止めってことは勇者がきたら困る理由があるってことですよね。そして勇者がこの国に向かっているってことはすでにその困る理由をつかんでいる。ならその理由を俺が知っておいたほうが足止めできる可能性が上がるでしょう?」


 男性はこの会話中、フィオナに対してずっと笑みを浮かべている。


「聞く理由にしてはちょっと弱いですが、いいでしょう。わがニップール帝国はぺトラ公国と戦争をする準備をしています。勇者はそれを止めに向かっているのです。戦争の準備は最終段階に入っています。あなたが足止めする地点で計算するとあと3日、そこを通さなかったら足止め成功です」


 男性はフィオナの発言を遮って、説明を続ける。


「なお、勇者一行は4人で行動しており、魔法使い1人、戦士1人、狩人1人、そして勇者からなる前衛2後衛2の極めて普通のパーティです。まあ、レベルは高いですがうちのゲミニを倒したあなたなら大丈夫でしょう?」


「うちのゲミニってまるであなたの身内みたいですね、ゾディアックさん。」


 フィオナはこの一週間で最大の黒い微笑を浮かべる。お面をしているので誰にも見えないことに気付いてはいない。

 男性は今まで笑みを浮かべていた表情が一瞬だけ、少し曇る。


「おっと、口が滑ってしまいましたね。まあ、私のことはどうでもいいです。もちろん今回の依頼、受けますよね?」


「まあ、いいでしょう。絶対に殺さないようにすればいいんですね」


「はい、絶対に殺さないでください。殺した場合、あなたに責任を全て擦り付けて全力をもってあなたを殺さなければいけません」


 フィオナに対しての警告であり脅迫であったが、当のフィオナは全く意に介していなかった。


「そこまで教えてくださって優しいんですね」


「気に入りましたので。あなたとは公園ではなく戦場でお会いしたい」


「あなたの首に金が懸かればすぐにでも」


 フィオナは会話を断ち切るようにベンチから立ち、その場を去る。好意と殺意の視線を小さき身体で受け止めながら。


「待ってください。依頼は今からですよ?」


「え?」


 ちょっぴり恥ずかしかった。










「で、どうでした? 彼は」


「俺のミスとはいえ、ゾディアックということがばれるとはな」


「ゾディアックに勧誘しますか?」


「あれは狼だ。1匹を望むさ」


「しかし、惜しいですね。あんなに若いのに」


「だがあの若さでゲミニを破ったんだ。芽は摘んでおかないとな。今すぐには無理だが、いつか必ず」



ほとんど伏線作ってないくせに回収できるか不安になってくる今日この頃。

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