1 修学旅行
「はぁ~~」
彼。もとい宇野卓也がため息を吐いたのは何回目だろうか?すでにこの2日間で100桁を突破したように思える。
「なにため息吐いてんだよ?」
「だってよ。この修学旅行のグループ分けって男子と女子は別々じゃんかよ?」
「女子と一緒じゃねえからそのため息か?」
「それは2割だ」
修学旅行で泊まっているホテルの絶景が見えるーー今は夜のため見えないがーー踊り場から憂鬱気に外を見ながら語る。
それは少女がすれば儚く、美しく見えるであろうが。卓也がすると今晩の夕飯を考えているようにしか見えない。
「じゃあ残りの8割はなんだよ?」
「お前も気付いてるだろう!! 同じグループの奴らに対してだよ!!」
卓也と一緒のグループのメンバーは所謂DQNであった。夜に他のグループが寝ている時、スマホで爆音を鳴らす彼らはクラスの厄介者だった。
クラスメイトの中での常識。それは、DQN達には関わるなというものだ。
「ああ、あいつらか。だけどしょうがないだろ、くじで決まったんだし」
いつも通りDQN達が学校をさぼった日に、高校2年の修学旅行のグループ決めが行われた。その内容はDQNをどのグループに入れるかという会議。
流石日本人というべきか、謙虚さのあふれる。譲り合いの応酬が繰り広げられた。
結局、じゃんけんに負けた彼が修学旅行で目が死んでいるという悲劇に襲われたのだが。
「はぁ、まあいいや。もうすぐ時間だから部屋に戻らねえとな」
などと言っているが、卓也と一緒にいる小早川芳樹——巷で言う親友なのだが——彼が愚痴を聞かなかった場合はきっと卓也の心は折れていただろう。
「大丈夫か? 俺らの部屋に来るか?」
「いや、いいや。迷惑になっちまうしな。それじゃ!」
と言い走ってその場を立ち去る。きっとこのまま話していても、俺が先に折れる。芳樹に迷惑を掛けるぐらいだったら、走り去ったほうがいいと思ったのだ。
廊下を曲がってから後ろを見てみるが彼の姿は見えない。
安心して壁一面が窓になっているところにもたれかかったのがいけなかった。
ガラスが割れる音と、急に来る浮遊感。背中に向かってくる強風と元々俺がいた階がどんどん遠くなる。
俺が落ちたという思考に達したのと地面と接触したのはほぼ同時だった。