放課後 1
入学してから数日。
私にも女の子の友達ができた。
多野 麗華 ちゃん。
あの"意地悪わたあめ男子"の前の席に座っていて、そして、あの忌まわしき入学式の自己紹介のあと、「良いキャラしてるね」って声をかけてくれたのだ。
行き帰りは達也と、移動や休み時間は麗華と一緒に過ごし、順調に学校生活を送っている。
一つを除いては。
「あずにゃん」
「…………」
「梓ちゃん」
「…………」
「あーずーさー!」
「もー!なんなのよ!話しかけないでよ!」
「だって、俺は話がしたいんだもん」
(なぁにが"だもん"よ!可愛くない!)
と思いつつも、童顔な彼には少しも違和感はない、とも思う。
入学式の一件以来、こうして絡んでくる彼だが、私としては関わりたくない。また墓穴を掘ってしまうことが怖いから。
関わりたくないという気持ちを知っていて、わざわざ話しかけてくる彼が、何を考えているのかわからない。
今は休み時間。
次の授業が書道・音楽・美術の選択授業となっており、書道を選んだ達也と麗華は教室を移動していて不在だ。
"意地悪わたあめ男子"と私は音楽を選択し、音楽室にいた。
「私は、筒井くんと話したくない」
「違う。そーた」
「え?」
「筒井くんじゃなくて、蒼太」
「…………」
「蒼太って呼んでよ、梓」
ふわふわとした可愛い笑顔でお願いする彼に、好意はなくてもドキッとする。何でも願い事きいちゃうよーって気持ちになりかけて、我にかえった。
「梓、今日一緒に帰ろ」
「え、やだ」
「え、やだって言うの、やだ」
「…………」
「そんな白い目で見ないでよ。もう達也からは了解もらったから決定ね」
「ちょ、ちょっと!?」
室内に先生が入ってきたと同時にチャイムもなり、話は終わり!意見は受け付けません!と言わんばかりの雰囲気になってしまった。
(ちょっと、どーゆーこと!?)
「あー……俺、これから委員会会議があるんだよね。だから、梓が一人で帰るの寂しいかと思って了解した」
放課後、達也に問いただすと、しれっとした顔で言うから、思わずグーでお腹を軽くパンチした。
「いてっ。……まあ、梓が蒼太を苦手としてるのはわかるけどさ、一度ちゃんと話してみたらどうだ?毛嫌いはよくないぞ?」
(わかってる………わかってるけど、でも……)
黙り込む私の頭を優しくポンポンと撫でてくれる。
「大丈夫。夜にでも話きいてやるから」
「………わかった」
「よしよし」
もう一度 私の頭を撫で、「またあとでな」と達也は教室を出ていった。
達也は基本的に優しい。
いつもワガママを聞いてくれる。
同じ年だけれど、お兄ちゃんみたいな存在で、私は甘えてばかりだ。
(たっちゃんの言う通りだよね…毛嫌いはよくない)
隣の席を見る。
一緒に帰ろうと言った本人はいない。
カバンはあるから、帰ってはいないのだろう。
(どこ行ったのよ……)