ひとまとまりの言葉
その場のノリだけで書いたものなので、さらっと読んでください!
ちなみに、初めて挑戦したバトルものです
「つまり三年前まではごく普通の、最先端技術が使われた学校だったというわけ。」
と、隼也が言う。最先端技術が使われている時点でごく普通ではない、と言う突っ込みを飲み込んだ一色はかわりに別の言葉を紡いだ。
「しかし隼也、確かに三年前まではこんな抗争とかもなかったんだろうそれは理解したよ。なら一体この技術は何のために生み出されたの?」
「えらく逆説的な考え方だなあ、要するにお前は、この技術は争い以外何に使えるのか、と言いたいわけだ。」
隼也がまとめるように言い、一色は頷く。
「もともとはイメージしやすくするためだと聞いた。確かに振り返ってみると想像しにくいものがいくつかあるからな。」
「想像しにくいものをわかりやすくするため、ねえ。でもその理由で行くと、それは高校ではなく小学校に導入するべきじゃないの?」
「最終的にはそういう予定だったらしい。でも、いきなり小学校とかで使用して、なにかあったら大変だろ?だから初めは俺らの高校みたいなかなりの進学校……状況判断ができる生徒がたくさんいるところに導入されたんだと。」
しかしその結果起きたのは学校全体を巻き込んだ抗争。
もっとも、この高校だからこそ学校の中だけで済んでいるのかもしれないが。
「……しかし、すごい話だよな。」
「なにがだ?」
「最新技術のこと。確かに今ここで起きている漫画みたいなこともすごい話だけどね。」
最新技術。
それは、慣用句を具現化する技術。
隼也が話したとおり、もともとはイメージしにくい慣用句をより親しみやすくするため、という理由で開発されたこれだが、三年前に事件は起きた。
教員の一人が、禁断の慣用句を使用してしまったのである。
『魔が差す』
外部に漏れたら大変なことになるこの技術を扱う教員たちは、当然のように一般の面接試験よりも厳しい試験を受けなければならない。
しかしそのため、善良な人間しかこの学校にはいなかったのだが、ある日一人が豹変した。
『魔が差す』とは、ふと悪い考えをおこすこと。
その言葉を具現化してしまった彼は、文字通りしてはいけないことをした。
彼は学校に改革を起こす。
まず行ったことは、彼に心酔していた女教師に『白紙に戻す』を与えたこと。
そしてその後、全校生徒一人ずつに別々の慣用句を与えた。
はじめ、生徒は嬉しがり、与えられた慣用句を使って遊んでいたが、過ぎた技術を与えられた子供がいつまでも小さい遊びで満足するわけがなく、悪用する者が現れ始めた。
そして今、無駄な抗争はやめるべきだという『状況打破派』と楽しいからいいじゃないかという『現状維持派』に別れた私立嶺上学園は、大戦争時代に突入している。
「上手いのは三元先生だよね。」
一色が言う。三元大。固有スキル『魔が差す』を持っている教師である。
「確かにな。なんたって、平先生に『白紙に戻す』を与えたことで、この学園を出た瞬間、あらゆる記憶、データが消去されることになったからな。」
『白紙に戻す』……このスキルを使用することで隼也が言ったとおりあらゆる情報が削除される。
彼らがこういった会話をしているのもこの学園内にとどまっているからであって、一歩でも敷地を出てしまうと慣用句に関する記憶は失われる。
未だに開発者や政府が動いていないのはそのためである。
無論、学校内からメールを送るのも無駄なことであった。
「で、隼也。どうする?当面の目標は。」
一色は属することを嫌う。
かといって一匹狼を気取るわけではない。孤独も嫌う。
少数精鋭こそが真理だ、と考えている。
「俺はな、一色。思うわけだよ。」
「なにをさ?」
「三元が全校生徒に固有スキルを与えてから三年がたった。俺たちは新入生なわけだから…今の大学二回生が高校三年生の時に事件が起きたってことになるのか?」
そのとおりである。
「そして俺が思うに、三元はひとつもスキルをダブらせていない。」
「ダブらせていない?ちょっと待って、慣用句ってそんなに数あるのか?」
慣用句の数を数えたことのある人間はいないだろう。きっと無数にある。
隼也もその一人のようだ。
「総数は知らない、が、いま一学年に二百人くらいいるだろ?六百くらいはさすがにあるんじゃないか?」
「六百…って、違うよ隼也。卒業した生徒が二学年分いること忘れてない?」
「忘れていない。別にいいんだよ、六百で。」
そう、この学園を出たら記憶がなくなるのである。故に卒業生は二度とスキルを使わない。
「二度とスキルを使わない、というのはそのスキルが封印されたも同然だ。つまり、三学年分の固有慣用句があれば、だぶることはない。」
「なるほどね、それはわかったよ。それに三元の性格からしてスキルをダブらせないというのもまあ頷ける話だと思う。で?それがどうしたの?」
「さっき、慣用句が何個あるのかは知らないといったが、さすがに六百人。有名どころのスキルは全部出尽くしていると思う。」
有名な慣用句。足が棒になる、耳にタコができるなどが有名と思われる。もっとも耳にタコができるスキルを与えられたところでどうにもならない気もするが。
「だからな、出ていると思うんだ。」
終止符を打つ
「が。」
「っ!な……」
終止符を打つ。読んで字のごとく終わりにする、結末をつけるという意味である。
「そのスキルを使えば、この醜い抗争、ひいては三元の悪事も終わりを迎えるんじゃないか?」
「た、確かにそうだ…そうだよ隼也!」
「だが三元のことだ。そんな重要な慣用句を渡す相手くらい選んでいると思う。」
「うん、俺や隼也みたいな人に渡ったら一瞬でこの『遊び』が終わるからね。」
「ここではじめの話題に戻るが、俺たちの当面の目的は『終止符を打つ』スキルの持ち主を探すこと、だ。」
特定のスキルホルダーを探す。それが難しいということは二人ともよく理解していた。
この学園のなかに好き好んで自分の能力を明かす人間などいないのだ。
「そしてもう一つ。」
四喜隼也の言葉はまだ続く。
「それを実行するにあたって、仲間がいる。」
「仲間…?」
「俺のスキルもお前のスキルも、純粋な戦闘には向いていないだろう。だから、物理系の能力を持つやつを誘いたいと思うんだ。」
物理系能力。
具現化慣用句にはいくつか種類がある。
そのうちの一つである物理系は、明らかに戦闘用に特化した代物である。
「物理系か……一人知り合い………というか友人にいるよ。」
「そいつは誘えそうか?」
「うん、どちらかというと傍観しているタイプだから誘えば付いてくると思う。」
「……ちなみに、そいつの名前と能力は?」
「地和。」
「ちわ?女の子か。」
「いや、確かに女の子だけど、地和っていうのは苗字。地和サキ。『骨を折る』スキルを持つ女子高生だよ。」
「へえ、面白いこと考えよるなあ。」
その時だった。
廊下の隅から人が現れたのは。
「っ!?」
「終止符を打つ、か。確かに面白いアイディアやけど、すまんがそれは三元はんの意思に反するんやわ。」
「お前、三元側の生徒か。」
「うちの学園なんて七割がたそうちゃうの、でも残り三割のために俺みたいな粛清係がいるんよ。」
粛清係。その物騒な響きに一色は戦慄した。
「まあそんなわけやから、お前らには消えてもらいますわ。」
「消えてもらう、だって?どうやって。」
「こっちには白紙に戻せるなごみちゃんがいはるからなあ、気絶さえさせれば記憶を書き換えることくらい造作もないことなんや。」
平先生のことをなごみちゃんと呼ぶ謎の男子生徒の言いたいことをすべて理解した隼也は、それでも気丈に言い返した。
「つまりお前は、俺たちを倒したいと。」
「そういうこっちゃな。」
隼也は一色を見る。
「一色、バトルパート突入だぞ。」
「わかっているよ、待って、サキを呼んでくるから。」
「任せた。」
「ん?何言ってるんや、ここで二人まとめて潰すに決まってるやろ、増援なんて呼ばせんよ。」
「お前はいったい誰に向かって喋っているんだ?関西人。」
関西人は驚愕する。
すでに隼也の隣には誰もいなかったからだ。
「え、な…なんでや?移動系のスキル持ちか?」
「さあな、ばらす訳無いだろ。……さて、一色が戻ってくるまで俺が時間稼ぎでもしておいてやるか。」
気だるそうな雰囲気を醸し出しながら隼也は関西人に向き直った。
「はっ、一色ってやつがどんなスキルを持っていて誰を連れてこようが関係ない。ここでお前を倒して帰ってきた奴を絶望させてやろうやないか。」
そう言い放ち、右足を上げ……
「暗橋刻、参る。」
そのまま隼也に向かい蹴りを繰り出した。
「さあ避けえや避けや、死んでまうで!」
連撃。
足がガラスや壁に当たる度に飛び散る破片。
普通の人間の足にはとてもできないような芸当を平気な顔をしてやってのける刻。
「へえ。」
そしてそれを余裕な顔で避け続ける隼也。
「まあ落ち着け暗橋くん。」
「今更怖気づきよったか、残念やけど遅いで。」
「違う、違う。俺の推理を聞いて欲しいだけだ。」
「はあ?推理?なんでそんなもんきかなあかんねん。」
会話しつつも連撃は続けられている。
「お前はここでやられて白紙に戻されるんやから、もう諦め」
「足が棒になる。」
「っ?」
隼也の一言を聞いた瞬間刻の足が止まる。
否、刻の『棒』が止まる。
「お前のスキルだろ、足が棒になる。物理系か。確かに恐ろしい能力だがリーチが限定されている上に滅茶苦茶な動きをしないぶん、避け続けるのは容易いよ残念ながら。」
「お前……なにもんや。」
その質問に不敵な笑みを浮かべる隼也。
「このくらいは多少頭の切れるやつならわかる。足関連の慣用句ってことで限定されるからな、ただまあ、俺の場合足に関係しているとかは関係ない。」
ひと呼吸おき、言葉を続ける。
「『一を聞いて十を知る』」
それを聞いた瞬間引きつる顔。
一を聞いて十を知る能力。少しでもヒントがあればそこから全体像を当てることができる、言わば究極に頭がいいスキル。
「俺の能力だ。覚えなくていい、どうせすぐお前は消えるんだから。」
「う…うるせえ!能力がわかったからってなんやねん、力で押し切ったら関係ないわ!」
「そして俺の時間稼ぎも終了だ。」
「あ?‥‥‥‥‥‥ぎ…ぎゃああああああああ」
突如悲鳴を上げうずくまる暗橋刻。
彼のすぐ後ろには、一人の女の子がいた。
「『骨を折る』。貴方の腕の骨を折ったわ。」
彼女は冷静に冷酷に、冷淡にそう呟いた。
「隼也、時間稼ぎありがとう。」
「全然いいさ、それよりも恐ろしいスキルだな、地和さん。」
「そんなことないわ。触れないと発動しないもの。」
あっさりというがそれでも十分恐ろしいスキルである。
触れただけで人の骨を折る。
「ま…てや。」
「しぶといやつだ。腕の骨を折られてもまだ立ち向かってくるか。」
「俺は負けへんで、まだ足はおられてへん。まだ俺は戦える。」
立ち上がり、ふらふらと一色たちの方に歩いてくる刻。
「うーん、この狭い廊下に三人か、相手が相手だけにしんどいかもな。」
「そう?ならどうするの?離脱する?」
「離脱するなら私に方法あるけど。」
「ならお願いできるかな。」
この時隼也はもう少し考えるべきだった。
一を聞いて十を知るスキルを持つ彼なら、彼女がどんな手を使う方安く予想できただろうに。
ちなみに彼らがいる校舎のは四階。
「ふう、それじゃあ校舎の『骨を折り』ます。」
「――――――」
校舎が崩壊した。
「おいおい地和さん、それは……」
「? なにかいけなかったかしら?」
「いや、まあこうして無事に校門の前に着地できたから何も言うまい。」
「でも隼也、上手く着地できたのはむこうもだよ。」
「わかっているさ、でももともとの目的である狭いところからの脱出は成功した。」
「そうだね。ならあとはサキに任せる?」
「いや……一色。お前もそろそろ働け。」
「そうよ清くん。私ばかりに仕事を押し付けられても。」
「……わかったよ、じゃあサキはひたすら時間を稼いでいてくれ。」
「了解したわ。」
「俺は高みの見物と行くよ。頑張れ一色、地和さん。」
「校舎を壊すとはようやってくれたなあ…なごみちゃんがいるからなんとかなるとは思うけどあんたらえらいことしてくれてんで。」
「知っているわ。」
「まあ俺も狭いところでぶちのめすのは気が引けとったんや、これで心置きなく―」
殺れる、と叫びサキへと向かう刻。
「手で捕まえられんかったらええんやろ、それさえわかってればこっちのもんや。」
「それはどうかしら。」
向かってくる彼に対して右手を構える彼女。
「確かに私の能力はこの右手にしか宿ってないわ。でも、私を気絶さすまで右手に触れないなんてあなたにできるかしら?」
「はっ、愚問やで。」
そう言って蹴り飛ばす。
簡単に攻撃を食らう彼女は校門の前まで転がった。
「おいおい、まだくたばらんといてくれよ、この勝負、どっちかが倒れるまで終わらんからなあ!」
「……服が汚れてしまったわ。」
「ノックアウト以外の決着はない!」
そう叫び校門の前で倒れている彼女の横に来た刻。
「それはどうかな、暗橋くん。」
「っ、おま…一色……いつからそこに……」
「リングアウトも、あるんだよ。」
どこからともなく現れた一色清は、暗橋刻を、学校外へ押し出した。
「人目につかない。俺のスキルだよ。」
閉じられる校門。
「一色君、四喜君、地和さん、お見事。」
拍手の音が響いた。
「誰……お、お前は」
「どうも、三元大だよ。いやしかしお見事。暗橋くんはなかなかいい慣用句使いだったんだけどねえ。そうだ、いいものを見せてもらったお礼に、彼の記憶を消去しておくよ。」
「三元。よく聞け。」
「なんだい?四喜くん」
「俺の作戦を知っているのかどうかは知らんが、俺にはこのくだらない遊びを終わらせる策がある。」
楽しそうな顔でそれを聞く三元。
「半年だ。半年でお前を、この学校から消す。」
「おうおう、消すだとか物騒だね……半年、か。」
「ああ、半年だ。」
「楽しみにしておくよ、この遊びも、はじめは楽しかったんだけど最近は飽きてきちゃってね。君みたいな血の気の多い若者、大歓迎さ。」
「……」
「そして一色君。僕は君に期待している。」
「お、俺?」
「人目につかない、というとても使えないようなスキルを良く使いこなしているようだね、君も僕を倒すつもりなのかどうかは知らないけど、その時は君に注目しておくよ。」
「……そのニヤついた顔、俺が消します。」
そう言い放った一色を一瞥し、三元は帰って行った。
「半年だ。それまでに見つけ出そう、終止符を打つスキルホルダーを。」
半年後、最終決戦の火ぶたが切っておとされる。
ありがとうございました!
続きは、あるんでしょうかね