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ドライベルモット  作者: 升田陽路
6/8

プロデュース

 次の年の春、布施陽介はアルバム{UP&UP}を引っ提げ華々しくデビューする。その優れた楽曲が話題となり、シングルカットされた{TEARS}はミリオンセールスとなった。


 「その後の布施陽介の活躍は多木さんもよくご存じの通りさ。」


 二杯目のドライベルモットを飲み干し、話を結んだ陽介は万里子に笑ってみせた。


 「本当にそんなことが?とても信じられる話じゃないわ。天才布施陽介の片棒をこの人が担いでいたなんて、晃がギターをやることすら初耳よ・・・。」


 「秘密の契約は絶対に気付かれちゃまずいからね(笑)」


 陽介の前にドライベルモットを置いた晃は万里子に目くばせをしてみせた。


 「まさか布施さん、晃を明日葉のゴーストライターに?」


 「ええ、娘さんの才能と晃の才能がタッグを組めば間違いなく売れる。僕は確信しています。」


 「そんなの危険だわ。絶対にいずれバレるに決まってる。それに晃が明日葉の父親だって事も・・」


 「僕との関係も多木さんに気付かれなかった晃ですよ。こいつは信用できます。なあ晃、どうかな? お前も多木さんと明日葉ちゃんには償いの負い目を持っているはずだ。自分の手で娘の夢を叶えてやれるんだぞ。悪い話じゃないだろ。」


 「ちょっと待ってください布施さん。まだ明日葉本人の気持ちも聞いていないのにそんな・・


それに自慢じゃないですけどあの子は芯が強くて真っすぐな子に育ててきました。夢への近道の為に世間に嘘をつける子じゃありません。自分の力で坂道を上っていく子です。」


 「そうは言っても歌手を夢見てリハシンやストリートまでやってる子が目の前に落ちてる夢のチケットを拾い上げないはずはない。この業界で働いてる多木さんなら良く解ってるはずだ。」


 「それは・・・」


 「晃、お前の気持ちを聞かせてくれ。うちの事務所がどうこうじゃなく、今後の俺の運命、多木さんの運命、お前の運命、そして明日葉ちゃんの人生がかかってるんだ。」


 晃はもう一本タバコに火をつけ自分のグラスにドライベルモットを注ぐと一口だけ口にした。


 「わかった・・・引き受けよう。」


 「本当か!」


 「ただし、条件がある。」


 「おい、何だよ条件て」


 「今回はゴーストライターは無しだ。明日葉の名前じゃなく俺の作品として協力する。」


 「何故だ?」


 「言っただろ、俺は自分の作品を自分が作ったと言えない苦しみはもうゴメンなんだ。それに、もしまた俺が書かなくなった時は布施陽介と同じように明日葉も終わってしまう。明日葉だけはそんな目にあわせたくない。」


 「自分の名前を出すのか?」 


 「いや、矛盾してるようで悪いんだが俺はやっぱり表に出るのは性に合わない。ペンネームでも使わせてもらうよ。」


 「なるほど。それならリスクも無いし聞いたことのない作家名ならミステリアスで逆にいいかもしれない。どうかな多木さん」


 「そういう事なら多少は・・・とにかく明日葉に話してみない事には・・・」


 「もちろんです。じっくり話し合ってから返事をください。」


 「わかりました、じゃあさっそく帰ってあの子に話してみます。晃、今夜はこれで帰るわ。」


 「そうか、一人で帰れるね?」


 「ええ。布施さん、なるべく早くお返事します。おやすみなさい。」


 「いい返事を待ってます。おやすみなさい。」


 万里子が店を出ると陽介は話のトーンを上げ


 「いやあ、あまりの偶然が重なってビックリしたけど手ごたえが掴めて実に愉快だ。やっぱりお前を訪ねて来て正解だったよ晃、本当にいい店だなこの店は(笑)」


 「相変わらず調子のいい男だな(笑)」


 「いやあ酒も美味いしマスターはいい男だし、店内の雰囲気も最高・・あれ?あんな所にキーボードなんか置いてあったけ?」


 「昔からあるよ。隅っこに置いてあるから気付かなかったんだろ。ただのオブジェだよ、もう壊れてる。DXー7だ、音楽やってた人間には懐かしいだろ」


 「ああ、そういや俺のバックバンドのメンバーも使ってたっけ。 なあ晃、娘のデビュー曲だ、俺の時より気合い入れて最高の曲を頼むぜ。」


 「ああ、ブランクが心配だけどな(笑) 今夜から早速取りかからせてもらうよ。」


 「そうかそうか(笑)いやあ、楽しみだな。じゃあ創作活動の邪魔にならないように俺も帰るとするよ。仕上がったらすぐに連絡してくれ。」


 


 三日後、陽介の携帯が鳴った。


 「やあ、多木さん。連絡を待ってましたよ、明日葉ちゃんは何て?」


 「布施さんのおっしゃる通り、若い子の夢の突進力に押し切られてしまいましたわ。母親の慎重な意見なんて無意味ですね(笑)」


 「そうですか!いやあ良かった(笑) 実はついさっき晃からも連絡がありまして、曲が完成したらしいんですよ。さすがに仕事が早い(笑)多木さん、早速今夜どうでしょう?晃の店で、契約書持参で行きますからお祝いに一杯やりながら細かい話と曲の完成披露でも」


 「わかりました。今夜は早目に上がれると思うので十時には伺えると思います。」


 「はい。では今夜(笑)」


 


 いつもの家路を途中で左に曲がり万里子は住宅街をすり抜けた。店の前にはすでに陽介の車が停まっている。


 「いらっしゃい。」


 「やあ、待ってましたよ多木さん。どうぞ隣へ(笑) いつものでいいですか?タバコはいかがです?」


 「布施さん落ち着いてください(笑)」


 「あ、すいません、つい(笑) おい晃。いつもの作って早く曲を聴かせてくれよ。」


 「わかったよ(笑) おまちどうさま」


 「じゃあまずは三人で乾杯といこう。カンパ~イ!」


 「乾杯!」


 「乾杯。」


 「いや~美味い!今夜は特別に美味いね! 晃、早く聴かせてくれ。」


 「はいはい。じゃあかけるぞ。歌は入れてない。ここに歌詞をコピーしてあるから見ながら聴いてくれ。」


 「へえ、タイトルは{陽のあたる坂道~きっと明日は~}か、明日葉ちゃんにピッタリじゃないか(笑)」


 晃がデッキのスイッチを押すと店内の曲がジャズからキーボードの音色に変わった。


 「あれ、ギターじゃなくてキーボード? 珍しいな晃。」


 「いいから黙って聴けよ」


 美しく漂いながら始まったメロディー、サビにくると力強く押し寄せる音の波。聴き終えると陽介は歓喜し、万里子は自然と溢れる涙をこらえきれずに顔を覆った。


 「すごいよ晃! やっぱり天才黒川晃は健在だった(笑)」


 「どうだい万里子。」


 「素晴らしいわ。なぜか分からないけど気持ちが高ぶって心が揺さぶられて涙が出てきた。」


 「晃! こりゃ売れるぞ。それでペンネームはどうする?」


 「今考えてる所だ。 なあ、陽介。」


 「どうした?」


 「もうひとつ条件を飲んでもらいたい。」


 「何だい?」


 「俺をお前の会社の社長にしてくれ。」


 「は? 何を言い出すんだ晃、」


 「ダメなら今回の話は無しだ。」


 「ちょっと晃・・。あなたの御自慢の錬金術ってこんな強引なやり方をする事だったの?布施さんの会社を乗っ取るつもり? 見損なったわ。」


 「いや、社長の報酬はいらない。」


 「どういう事なんだ晃。」


 「俺も君たちが働くきらびやかな世界を一度覗いてみたくなったんだ。君たちと同じ裏方としてね、事務所の社長ならタレントの行く現場に出入り出来るだろう。明日葉のマネジメントも俺に任せてもらう。陽介、お前のゴーストライターをしてるころ自分が作った新曲を自宅のテレビで恨めしく見てるしかできなかった俺だ。そのくらいしてもバチは当たらないだろ。今回は明日葉の歌う現場で自分の曲を聴きたい。お前は自宅のテレビでじっくり見ててくれ(笑)なーに、社長と言っても名前だけ連ねてくれればいい。明日葉以外の会社経営にはいっさい口は出さない。それに気が済んだらすぐに社長は降りる。」


 「・・・まったくお前の考えることには驚かされるよ。 わかった、そういう事なら構わないだろう。お前には返しきれない恩もある。KYOHKOには俺がうまく話しておこう。」


 「それと万里子。君にも頼みがある。」


 「何なの?」


 「君の番組の権限はプロデューサーじゃなく万里子にあるんだったよね。明日葉のデビューはランキング10の今週の注目曲にしてくれ。」


 「何ですって?」


 「あの番組のリハーサルでダミーの仕事じゃなく自分の歌を歌わせてあげたいんだ。」


 「あなた・・・」


 「陽介、明日葉のデビュー曲発売はいつの予定だ?」


 「三か月後だが・・」


 「ランキング10の出演の日まで他のテレビ、ラジオ、有線すべての媒体での曲の使用は禁止だ。初披露はランキング10。CDの発売はもちろんレコーディングも番組出演の後だ。いいな? 万里子、番組へのセッティング頼むぞ。」


 「まったくあなたって人は・・・ホントに我が道を強引に行く人ね。」


 「聞いたこともない戦略だな。負けたよ晃。明日葉ちゃんのテレビデビュー当日はお前に全て任せよう。俺は昔のお前のように自宅でテレビを眺めさせてもらうよ(笑)」


 「よし決まりだ。それと万里子、歌が始まる時の曲のテロップ、あれって本番直前でも直しは効くのかい?」


 「ええ、今はパソコンで入力するだけだから簡単よ。どうして?」


 「いや、ペンネームだとしても自分の名前が出るとなると感慨深くてなかなか直前まで決まりそうにないんだよ。」


 「わかったわ、担当のスタッフに言っておく。」



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