雪といけにえと狩人
「ここまでで良いの?」
「うん。あとはひとりで街に戻れるから……」
「じゃあ……ここでお別れだね」
「……え? 母さん、どこか行っちゃうの?」
「うん。この子と一緒に、生贄の民の生き残りを探そうと思うの」
「そっか……」
「ごめんね。最後にこんなわがままを言って……」
「気にしなくていいよ。これでお別れじゃないでしょ?」
「たまには帰ってくるよね」
その言葉にシアーシャはなにも答えなかった。
やがて沈黙が続き、雪が静かに降り始めた頃、シアーシャが口を開いた。
「クリフと出会った時も、こんな雪の日だったなぁ……」
「クリフのお母さんはね、クリフのこと……大切そうに抱きしめてたんだよ。指が固くなって、一本一本、必死に解いていって、私の腕の中でずっと泣いてた」
「結局……私は何者にもなれなかったね……クリフのお母さんになれなかった」
「そんなこと言わないでくれ!」
「母さんは……俺の母さんは、アナタひとりだけだ! 俺を愛してくれた……俺に愛を教えてくれた。優しさを教えてくれた、強さを……誰かを愛することを……たくさん教えてくれたんだ!」
クリフの言葉を聞くといつも心が温かくなる。今だってそうだ。ぽかぽかしていて、心地の良い鼓動が聞こえる。
「クリフのことを考えていると、いつも心が温かくなったの。それがきっと……愛なんだろうね」
「クリフと出会った時、この子は私と一緒に泣いてくれるんだと思ってたの。ひとりじゃない、クリフが一緒にいてくれるって……クリフと一緒にいると、辛いことも苦しいことも、薄れていったの」
「俺はそんな……なにも……」
「ううん。クリフは色んなことをくれたよ。約束も守ってくれた……私のことずっと守ってくれてた。バアルさんと一緒に……遠くに行っても、きっと思い出せるから……もうひとりじゃない。クリフがいてくれるから、今の私がある」
「今の私を作ってくれたのはクリフがいてくれたからだよ……」
「さようなら……私の大切なクリフ……」
「待ってくれ!」
「俺はまだ、なにもアナタに返せていないじゃないか!」
「行かないでくれ!」
「母さん!」
シアーシャとナムタは雪霧に包まれて消えていった。もう一度、母と出会えるのだろうか。その時は、今度こそ気持ちを伝えよう。育ててくれた感謝を、愛してくれた恩を……。母には返しても返しきれない恩ばかりがある。また、出会えるよね……きっと……きっと。




