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プロローグ⑥

夜。月明かりが世界を照らす時間。


「……ただいま」


低い声がした。女の声だ。


「あ、先生。おかえりなさい」


「料理できてますよ。すぐにお食事の準備を……」


テーブルに食器を並べながら、シアーシャは(かま)に入ったスープを注ぐ。先生は外套を脱ぐと重い口を開いた。


「……今年の生贄が決まった」


「――え?」


その言葉に、シアーシャの頭は一瞬、思考が止まった。生贄の民は数十年に一度、シルド王国の王族に嫁ぐならわしがある。生贄が決まるのは本当に突然で、シルド王国に嫁いだら最後、王宮の敷地から出ることを禁じられる。


「今日、シルド王国から使者が来た。太公に嫁ぐ若い女を用意しろ……とな」


「そ、そんな……でも、一体誰が選ばれたんですか……」


「話せば辛くなるのはお前だぞ」


「構いません……教えてください」


先生は、一瞬、呼吸を止めて、もう一度息を吹き返して言った。


「テムだ」


チクリと、心臓が鋭い痛みと共に揺れる。動揺して、足の力が抜けた。その場にへたり込む。なぜ? なぜ彼女が選ばれた。


「どうして泣いている?」


自分でもよくわからない。なのに、悲しくてたまらない。


「わかりません……」


「おいで」


先生は優しくシアーシャを抱き寄せた。


「お前は本当に優しい子だね」


「考えているんだろう? どうして自分じゃないのか……なぜ、彼女が選ばれなきゃいけなかったのか。そうして、お前はまた自分を傷つけようとする。家族のいない自分が選ばれれば良かったのに……落ちこぼれである自分が出ていけばみんなが喜ぶと思っていたんだろう?」


「……はい」


「良いかいシアーシャ。自分を憎んではいけないよ。これは仕方のないことなんだ。これは、私たち生贄の民が背負う運命なんだ。誰のせいでもない」


先生の言葉は優しかった。


「私たちは家族なんだ。どんなことがあっても……私がお前を守ってやる。お前はひとりじゃない」


シアーシャは泣かなかった。せめて、テムと別れるその時だけは、笑顔で見送りたい。その為に、シアーシャは感情を押し殺した。先生の胸の中で、悔しさを噛み締めながら。体を震わせながら。シアーシャは耐え続けるのだった。

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