さよなら②
懐かしい街だ。馬車に揺られながらシルド王国の街を見渡す。昔と何も変わっていない。昔の光景と同じままだ。屋台も、家々も、噴水もどれも見覚えがある。
ミゲルは兵士としての仕事があって一緒には帰れなかったが、クリフとニーナの三人で久しぶりにこの街に帰ってきたせいか懐かしい風を感じる。その感覚は初めてきた時と同じように今でも、その美しさに驚く。
「お父さーん、お母さーん。いるー?」
路地裏の小さな家の前で、ニーナが扉を叩く。
「はいはい。今行くよー」
家の奥から声がする。
「おや、ニーナじゃないか。一体どうし――」
言いかけた言葉を飲み込んで、ディナは仰天する。ニーナの側にいるバアルを見て、身体が固まったのだ。
「バアル……アンタ、バアルかい?」
「はい。お久しぶりです。ディナさん」
「何年ぶりだい。何も言わずに、家を去って心配してたんだよ。アンタも随分と老けたもんだねぇ」
「それは、お互いさまですよ」
「てことは、そこの若いのが……」
「クリフです」
「大きくなったねぇ……最後に会ったのは赤ん坊の頃だから、数十年ぶりになるのかねぇ」
「どうも……」
「騒がしいなぁ。誰が来たんだよ」
「アンタ、大変だよ! バアルとクリフが帰ってきたんだよ!」
「バアル……?」
「バアル……!」
「おお! お前、バアルか!」
「今までどこで何してたんだよ! 別れたあの日からずっと心配してたんだぞ!」
感極まって、ジェルドはバアルの身体を抱き寄せる。二人とも随分と老けたものだ。出会った頃と比べて、しわやほうれい線が目立つ。と言っても、それは自分も同じか。
「あれ、シアーシャはどうした? 一緒じゃないのか?」
「シアーシャさんは……捕まりました」
「……捕まった?」
「前にエル王国との戦争があって、そこから逃げる道中、兵士に捕らえられたんです。助けられなかったんです。シルド王国の連中に捕まった時……俺は何もできなかった」
「その話、たぶんシアーシャだけじゃないぞ」
「先の戦争を生き残った生贄の民のほとんどが、捕縛されたらしい。なんでも妃の娘を殺した罪で捕まっているらしくて、ここ最近は、生贄の民の処刑ばかり行われているんだ」
「そんな……! じゃあシアーシャさんは……」
「まだ、諦めるのは早い。あの子がそう簡単に死ぬもんか」
「とにかく中に入りなよ。久しぶりの再会なんだ。ゆっくりくつろいで行ってくれ」
家はふたりで暮らしていることを想定されているせいか、かなり狭い。客人が三人もいると、圧迫感すら覚える。だけど、初めてジェルドたちの家に尋ねた時もこんな風に大勢でテーブルを囲んだものだ。懐かしい記憶を探りながら、バアルたちは、暖かな暖炉の光に包まれるのだった。




