さよなら①
鳥が空を飛んでいる。窓の外から見える光景は、代わりなく青空が広がっている。退屈な光景だ。うつり変わる街の様子も、入り組む群衆を見ることもできない。自由な鳥が羨ましい。自由に空を飛ぶ鳥と、檻の中に閉じ込められた自分。檻に閉じ込められた鳥が大空を飛ぶ夢を見ないように、日を重ねるにつれて、自由を忘れていく。
「おはよう。シアーシャ」
「テム……」
「ここの生活はもう慣れた?」
テムの言葉にシアーシャは答えない。
「やっと準備ができたの」
「アナタの処刑が決まったわ」
その言葉に驚きはない。当然のむくいだ。テムの子を殺した罪からは逃げることなんてできない。これは、必ず償わなければいけない大罪なんだ。
「先生たちを殺したのね……」
「ええ……みんな殺したわ。まだ生き残りがいるかも知れないけれど、必ず見つけて殺してみせるわ」
「どうして……そんなことができるの……」
「みんな、一緒に暮らしてきた大切な人たちなんだよ! どうして、平気でいられるの? 昔のテムはそんなことをするような人間じゃなかった……なぜ、みんなを殺せたの、一番辛いのはアナタでしょ!」
「知った風な口を聞くな!」
「アナタに何がわかるの……リーフを産んでから、私はここに閉じ込められたきり、外に出ることも……ナムタと一緒に空を飛ぶことも許されない」
「リーフは私の全てだった……愛していたのよ……だけど、もう、リーフに会うことも叶わない。私はナムタと同じなの、檻の中で暮らす囚われの奴隷よ」
「テム……ごめんなさい。アナタの気持ちは良くわかるわ……私にもね、大切な人ができたの……だからどうか、罪滅ぼしを――」
「よく言うわ」
「アナタたちが全てを奪ったくせに」
「もう……あの子の匂いも忘れかけてる。あの子の声も……あの子の体温も、抱きしめた時の柔らかさも……全部……全部」
「どれだけ私から奪うの……そんなに私を苦しめたい?」
「私をひとりにしないで……」
「もう……ひとりぼっちは嫌だ……」
「テム……私は……」
「ようやく……これで、全てを終わりにできる」
「私はもう、アナタを友達だと思っていないわ」
「さよなら……シアーシャ。せいぜい、大切な人を思いながら死になさい」
どうして、こんなことになってしまったのだろうか……。別の選択肢があれば、テムもここまですることはなかったはずなのに……何が彼女をあそこまで凶変させたのか……。死の恐怖で身体が揺れる。そうか……自分は死ぬのか。自分が死ぬことなんて考えたこともなかった。死というものはこんなにも怖いんだな。今更後悔しても遅い……。
「死にたくない……死にたくないよ」
「誰か……助けて……」
消え入るような声で、シアーシャは最後に呟いた。その声は誰の耳にも届かないまま虚空へと消え去った。




