遠ざかる心⑨
「父さん。ちょっと良い?」
夜空の下、バアルは光り輝く天を見つめていた。夜風が心地いい。父とのことや、これからのこと……いろんなことを考えながら、バアルは深呼吸する。
「どうした?」
「少し話そうと思ってさ」
「クリフが誰かと話したいなんて珍しいな」
「別にいいだろ。俺だってたまには父さんと話したいんだよ」
「そう言われても、俺も口下手だからな。話せることなんて何もないと思うぞ」
「なんでもいいんだよ。俺が勝手に質問するから、父さんはそれに答えてくれれば」
「なんだ、俺に、聞きたいことでもあるのか?」
「あるよ。色々ね……母さんのこととか、俺自身のこととか聞きたいことが沢山あるんだよ」
「そうか……」
「母さんと父さんはさ……俺の本当の親じゃないんでしょ?」
「どんな人だったの。俺の両親って」
「さぁな。俺がシアーシャさんを見つけた時には、もうすでに死んでたからな。野党か何かに襲われたんだろうさ。そこをたまたまシアーシャさんが通りかかって、クリフを守るように抱き抱えたまま凍えて死にそうな所を俺が助けたんだ」
「ミゲルの両親ともそこで出会った。野党に襲われたところを助けて、それから数ヶ月の間、家に住まわせてくれたんだ」
「それからは大変な毎日で、乳のでないシアーシャさんの代わりにディナさん……ミゲルのお母さんがクリフに乳を分けてくれて、お前を助けてくれたんだよ」
「そんなに大変だったの? 子育てって」
「ああ……大変だったよ。お腹が空くと何時間も泣きわめいて、夜中に叩き起こされたこともあった。祭りに行きたいと叫んで家を飛び出したり、雨が降る中、半裸になったり、無邪気で可愛かったよ」
「父さんはさ……怖くなかったの? 親になった時……どんな気持ちだった?」
「最初は俺も不安だった。家族を守れるのか、自分のやり方で家族を幸せにできるのか……考えてばかりで、不安になったことも沢山あった。だけど、精一杯、母親になろうと頑張っていたシアーシャさんを見ていたら、どんな目にあってでもふたりを守りたいって思えたんだ」
「好きだったの? 母さんのこと」
「ああ……大好きだよ」
「でも、俺がそんな気持ちを持ってはいけないんだ。俺たちは夫婦じゃない……クリフを守る家族なんだから」
「お前も、ニーナのことを気に入ってるならさっさとこくれ。時間は有限だぞ」
「なッ……ち、違うから! 別に好きとかそう言う訳じゃ……」
「隠すのが下手なんだよ。その調子だと、他の誰かに取られるぞ」
「もう! からかわないでよ!」
こうやって、照れている時は子供の頃と何も変わらない。このままでいてくれ。そして、幸せになってほしい。これはお願いじゃない……ただのわがままだ。きっとあの子なら、自分たちがいなくても生きていけるはずだ。別れは必ず訪れる。どんな家族でもそれを避けることはできない。そう遠くないうちに自分たちはクリフの元を去る。せめて、その時が来るまで側にいてあげよう。クリフのために。




