遠ざかる心⑦
しばらく歩いて、ようやく小屋が見えてきた。木造で、こぢんまりとした趣きのある小屋だ。外には陶器が並び、大小さまざまなものが置かれていた。丁寧に作られており形は歪んでいない。綺麗な陶器だ。お世辞ではなく本心でそう思った。
「どこを見ても陶器だらけですね」
「当然だ。師匠は有名な陶器職人だからな。ニーナも、師匠の作品を見て、わざわざ村を出て弟子入りしたんだ」
「ジェルドさんも寂しかったでしょうね」
「ああ。ニーナが村を出るときなんて、泣き喚いてばかりで村中の人たちに心配されたくらいだからな」
「ジェルドさんも相変わらずですね」
「ジェルドさんたちは今もあの村に住んでいるんですか?」
「いいや、最近は景気が悪くてな……シルド王国につい先日引っ越したんだ。今じゃどこの村も老いさらばえている。ほとんどの人間が村を出たよ」
「仕事を探して?」
「じゃないと生きていけないからな」
そんなことを話しているうちに、小屋の前に着いた。ほのかに香る木の香りが心地いい。優しい匂いだ。
ミゲルが、戸を叩く。
「おーい。誰かいないか」
「はーい」
扉の奥からくぐもった声がした。柔らかい女性の声。
「あ、お兄ちゃん」
「よ、久しぶりだなニーナ」
「久しぶりって、家を出てまだ一ヵ月も経ってないでしょ」
「そうか? でも、一ヵ月も会わなかったんだ。俺だって寂しかったんだぞ」
「せっかく大好きなお兄ちゃんと再会できてお前も嬉しいだろ?」
「別に……」
「て言うか、連絡も無しに来ないでくれる。こっちも仕事があるんだから、迷惑なんだけど」
「そう言うなって」
「お前も元気そうで何よりだよ。また、少し背が伸びたな」
「それより……その人たち、誰? お兄ちゃんの知り合い?」
ニーナは、いぶかしげな顔を見せながら、バアルたちを見つめる。綺麗な女性になったものだ。バアルの記憶には、赤ん坊だった頃の姿しかないが、彼女も立派な大人になったものだ。
最後に会ったのはニーナが赤ん坊の頃。当然、バアルたちのことを覚えているはずもない。
「前にも話しただろ。昔、一緒に暮らしてたバアルとクリフだ」
「ふぅん」
ニーナはズカズカと、クリフの方へ歩み寄り、顔を覗き込む。
「な、なんだよ」
「私も赤ん坊の頃の記憶なんてなかったから、どんな人たちなのか想像してばかりだったけど……」
「アナタ……意外と可愛い顔してるのね」
「は、はぁ?」
クリフの頬が真っ赤に染まる。年頃のせいか、ロクに女性と話してないクリフにとってニーナは、得体の知れない存在だ。ただでさえ女性に免疫がないのに、出会いがしらに、そんなことを言われてはこちらも困惑する。
「ニーナ。客人か?」
奥から声がした。
その声が、こちらへ近づくと同時に、バアルは息を呑んで困惑する。声の主に見覚えがある。いや……そんなはずはない。生きているはずがない。あの人は、もうこの世にいないはずだ……。だけど、その姿、見間違えるはずがない。身体は老いぼれているが、風貌は変わっていない。まさか……生きていたのか……。
「父……上?」




