遠ざかる心⑥
エル王国から一時間ほど彷徨って、ようやく森に着いた。ミゲルを待ってまだ数時間。陽は沈み、辺りの光は消えていく。
合流するとは言っていたが、ミゲルは無事にここまで来れるのだろうか。数や戦力ならシルド王国が圧倒している、この戦力差でエル王国に負けるはずがない。ミゲルも無事なはずだ。
「あのさ……父さん」
「なんだ?」
「あの人……俺たちを助けてくれた人って、父さんの知り合いなの? 仲良さそうだったし……敵である俺たちを見逃してくれたけど、信頼できる人なの?」
ミゲルには、ジェルドたちのことを話したことは一度もない。話したとしても、その頃のクリフは赤ん坊で、顔も名前も知らない。何より自分たちの秘密がバレる事を心配していた。例え、自分たちがそんな人たちのことを話しても本人が困惑するだけだろう。
だけど、今は違う。クリフにももう隠す必要はない。
「昔、クリフが今よりずっと小さかった頃、お世話になった人なんだ」
「クリフを拾って、ここまで育てられたのは……あの人たちが助けてくれて、本当の家族みたいに俺たちを歓迎してくれたんだ」
「大切な人なんだね……その人たち」
「ああ……感謝しても仕切れないほど、たくさんのことを助けてくれたよ」
「どうして……そこまで……」
なぜ、バアルたちがクリフを大切にしてくれるのか、まだわからない。所詮は他人同士なのに、どうして愛を与えてくれる……どうしてここまで育ててくれた。父親だから? 母親だから? 親って一体なんなんだ。
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。なんでもないよ」
「いや、何か聞こえるぞ」
クリフは静寂に耳を聞きすます。声がする。ひとつ。若い男の声。
「おーい。ふたりともー!」
薄闇から松明の火が見える。ミゲルだ。
「すまない。エル王国の連中が中々、停戦に応じなくてな……遅れてしまった」
「エル王国が停戦……?」
「ああ……今回の戦争は大規模な侵略が目的じゃないからな。前から小規模の戦闘があったが、心配するな被害は想像よりもひどくない。今回の戦闘はナムタを使って、生贄の民の生き残りをあぶり出そうと、シルド王国の王族がちょっかいをかけてきたみたいなもんだ」
「シアーシャのことも心配だが、それより、急ごう。シルド王国の連中にバレると厄介だ」
ミゲルは行き先を照らしながら、道を進む。とりあえずこれで、戦争は一時的に止まる。それが良いことなのかは、わからないが、これ以上死者が出ることもない。自国の兵士に見つかれば、刑罰を受けるだけじゃ済まないのに、こうして自分たちを助けてくれたミゲルには頭が上がらない。彼がいてくれて本当に良かった。今はただ……この幸運に感謝することしかできない。




