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遠ざかる心④

重い鐘の音で、クリフは目を覚ました。


音のした方へ顔を向ける。窓から城が見える。なんの変哲もないただの城――のはずだった。遠く離れた城からは、白煙が上り、空を飛ぶ小さな影が見える。


その影は炎を灯しながら、街に火を放つ。街の人間がどよめき、誰かが拍車をかけて叫んだ。


「逃げろ! 逃げろ!」


敵襲だ。


シルド王国が攻めてきたのか……。今の状況だと、兵士もそこまで集まっておらず、防衛戦線に待機させることもできないだろう。急がなくては……。クリフはすぐさま家を飛び出すが、ひとつ脳裏に浮かぶことがある。


父と母は無事だろうか……。距離は遠いが、敵軍がナムタを使役している分、住宅地にまで戦火が広がるだろう。心配ではあるが……今は任務に集中しなくてはいけない。


きっと大丈夫。あの二人なら無事なはずだ。


「敵襲!」


「空上からシルド王国が攻めてくるぞ!」


城には大勢の兵士が並んでいる。


「皆、聞け! シルド王国の兵が海上と峠を越えたとの連絡が入った。二手に分かれて防衛するぞ!」


今もなお、シルド王国の攻撃は止まない。準備をしている兵士たちでさえ不安の顔が浮かぶ。彼らにも家族がいるはずなのに……どうして奪い合わなきゃいけないんだ。


地上からは、兵士が桟橋を挟んで迎え撃つ。そこにクリフの姿がある。まだ若いと言うのに、最前線に配置されたクリフは、静かに怒る。最前線に置かれたと言うことは、戦って死ねと言われているようなものだ。最前線はもっとも死者が出やすい。なぜ、自分が選ばれた。待っている家族だっているのに……いや、それは他の兵士たちも同じか。


結局、恩返しもできずに死ぬのか……。それだけは嫌だ。なんとしてでも生き延びてやる。


「来たぞ!」


「ここを突破されれば城ももたん! 死守せよ!」


「うぉぉぉぉぉぉ!」


長剣を片手にクリフは走る。


空からはナムタが、地上からは兵士の群勢が襲ってくる。敵の攻撃をかいくぐり、刃をつき立てる。人を切るのは初めてだったが、何も感じなかった。人の死というのは案外、あっけないものなのだな。それから、何人切ったのか覚えていない。殺した人間の顔も、最後の言葉も記憶の中には刻まれたりしなかった。ただ、死という概念だけがそこにあるだけだ。


「クリフ! 後ろだ!」


何も考えず、ただ剣を振っていた。その声にハッとして、後ろを振り返る。剣を振り上げた兵士が、顔を歪めながら振り下ろそうとする。


死ぬのか……ここで死ぬのか。


嫌だ……。


無意識の中、その攻撃を防ぐ。あとほんの少し気づくのが遅ければ、脳天が破られていたところだ。


死を受け入れるよりも前に、身体が動いた。


帰るんだ……あの人たちの為にも、自分は……生きなくちゃいけないんだ。そう考えると途端に勇気が湧いてくる。生きて帰る……絶対に。

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