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遠ざかる心②

朝方になって、クリフはやっと家に帰った。酒を飲んだせいか、思考もできずに足がふらつく。ずっと居候していた友達の家からも追い出され、行くあてもなく、街を彷徨っているところだった。


今までは職もなく、友達の家を転々としていたが今は違う。クリフは来月から職に就く。安い給料で楽な仕事ではないが、これでやっとひとりで暮らしていける。


両親の待つ家はあるが、帰りたくない。理由は色々ある。家に帰ると父親とは、喧嘩ばかりで、母親とは口すら聞いていない。別に両親が嫌いな訳じゃない……だけど、自分は両親にとって、本当に必要な存在なのか、疑問に思う時がある。小さい頃から、自分と両親は姿も性格も似ていない。自分たちの過去を話そうとしないし、何かを隠しているのは理解できたが、なぜ、こうも秘密にしているの幼い頃のクリフにはかわからなかった。だけど、今はわかる。考えたくはなかったが、きっと自分と両親には血の繋がりがないのだと思う。実際にそう言われた訳ではない。ただの憶測だが、両親はそれをずっと隠そうとしているのだろう。そんな嘘は無意味だと言うのに。もうわかっている。血の繋がりがない自分に、居場所なんてない。


そんなことを考えながら、見慣れた街道へ出た。家は小さな集合住宅の一室。昔、住んでいた屋根裏部屋と少し似ている。


「ただいま……」


呂律の回らない声で言う。


「クリフ!」


「良かった……無事だったのね」


「おかえりのキスは……」


「え?」


「キス……してよ。母さん」


「な、何を言って……お酒くさい……酔っ払ってるの?」


「別に……騒ぐようなことじゃないだろ」


「ちょっと……やめて……嫌!」


思わず、シアーシャはクリフを突き飛ばす。


「あ、ごめんなさい……」


なんで謝るんだよ。悪いのは全部、自分のせいなのに……勝手に怒って、勝手に不満を吐き出す自分が嫌だ。母さんは、何も悪くないのに。


「ようやく帰ってきたかと思えばなんだその様は。よくもノコノコと酔っ払って帰ってこれたな。今まで、どこをほっつき歩いていたんだ」


嫌な声がした。


「父さん……」


「また、友達の家に入り浸っていたのか。何度言えばわかる、遊ぶ友達はちゃんと選べとあれほど言っているだろう。母さんと父さんがどれだけ心配していたと思っているんだ」


「別に関係ないだろ」


「なに?」


「アンタには、関係ないって言ってるんだよ。俺はもう子供じゃない。いい加減、放っておいてくれよ」


「放っておける訳ないだろ。お前は、大切な家族なんだ。息子を心配するのは父親として当然なことだ」


「嫌になる……」


「いつまで、そんな演技を続けるんだよ」


「もう、わかってるんだよ! アンタらは俺の親じゃないんだろ……! ただの他人同士なのに、どうして俺をそこまで大切にしてくれるんだ! どうして俺を拾った! どうして俺を育ててくれた! アンタらに迷惑をかけるくらいなら、いっそ見捨てられて死んだ方が良かった……いつまでもガキ扱いで……アンタたちのそう言うところが大嫌いだ!」


「クリフ……」


「俺、仕事を見つけたから……」


「仕事って……?」


「エル王国の兵士」


「だから、明日には家を出るから……これ以上、迷惑をかけるつもりもない」


「荷物をまとめてくる」


今は、クリフの背中をただ見守ることしかできない。何も言えなかった。


「最後に言っておくけど」

 

「俺は、アンタたちのことを両親だと思ったことなんて一度もないから」


「お前……」


バアルがクリフの胸ぐらを掴む。


「どんな気持ちで……どんな思いで、シアーシャがお前を育ててきたのかわかっているのか! お前と変わらない歳の頃から、必死に母親になろうとして……お前をここまで守ってきたんだぞ! いつもクリフを守れるのか……不安になって、お前の母親になれるように悩みながら、それでもお前を愛していたんだぞ!」


「なら、もう放っておいてくれよ!」


「どうして、あなたたちが……俺をこんなに愛してくれのかわからないんだ……。いつも側にいてくれて、いつも必死に守ってくれて、自分の為になんでもしてくれて、例え偽物でも家族だから……俺はあなたたちを父さん、母さんと呼んでいただけだ。俺だって役に立ちたかったんだ。守られるだけじゃない……俺だってあなたたちを守りたかったんだ。だけど……今の俺は、あなたたちに迷惑をかけてばかりで、あなたたちを……傷つける。何もできないんだ……俺には、何もできないんだ!」


涙を流しながら、クリフはバアルの目を見つめる。バアルの握った手が緩んだ。


咄嗟に、バアルはクリフを抱きしめた。


「馬鹿……」


「俺たちは、お前に何かしてほしいから育てたんじゃない。お前に何かしてあげたいから育てたんだ」


「だから……もう、泣くな」


バアルは優しく、クリフの頭を撫でる。


シアーシャは心に秘めた想いを抱えていた。嘘つき……ずっと一緒にいるって約束したのに。嫌だよ。このままお別れなんて。どこにも行かないで。お願い……。ここにいて。


クリフと離れるなんて嫌だ。だけど、成長すれば子供は必ず親の元を離れる。クリフも大人になったんだ。だから、見送らなければ……笑顔で見送ってあげるんだ。クリフが旅立つその日まで。

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