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遠ざかる心①

「できたぞ! シアーシャ!」


「はい! 今行きます!」


夜の酒場は人が多い。エル王国は、田舎と違って、広いし人も多い。酒の匂いが充満して、息苦しいが、それも最初のうちだけだ。酒場で働いて数年は経つが、鼻が慣れたのか、嗅覚が潰れたのか、最近では、酒の匂いがしなくなった。仕事には支障がない程度で済んでいるが、今日は人が多いせいか、余計に香りが充満している気がする。


「だぁー! また負けた」


「また、クリフの圧勝かよ」


その声に、ふと視線が動く。


「だから言ったろ、やめとけって」


クリフは今年で一六歳になる。最近は、家に帰らず友達の家に入り浸っているらしい。友達のことをどうこう言うわけではないが、悪い友達とつるんでいるんじゃないかと心配になる。今だって、友達と一緒に賭け事ばかりしている。あまり見ていて気持ちのいい場面ではない。口調も悪くなったし、家に帰ればバアルと喧嘩をしてばかり。クリフはどうしてしまったのだろうか。突然、人が変わったように、昔のクリフと大違いだ。人は誰しも成長する。だが、その成長が悪い方向へ向かないようにするのが親と言うものだ。


「クリフ……」


それに……クリフは自分たちのことを「母さん」「父さん」と呼ばなくなった。そう言う年頃なのは理解できるが、やっぱり寂しい。小さな頃はあれだけ甘えてきたのに……。やはり、ここは親として、注意をしなければ……。


「やめときな」


亭主がシアーシャを呼び止める。


「男には男の付き合いってもんがあるんだよ。お前がどうこうするような事でもないだろ。放っておいてやれ」


シアーシャは寂しげにクリフを見つめる。クリフは気がついているのか、気がついていないのかわからないがシアーシャと目を合わせようとしない。あの子も気がついているのだと思う。自分たちが血の繋がった家族ではないことに……。きっとあの子も、嘘で固めた家族なんかより、友達といた方が楽しいのだと思う。クリフが幸せなのなら……それで構わない。けど、忘れないでほしい。帰りを待つ家族がいること。おかえりと言ってあげれる家があること……。例えどれだけ遠くに行ったとしても待っているから……。


母さんも、父さんもクリフの味方だから。ひとりじゃないから……お願い……必ず家に帰ってきて。クリフがいないと寂しいよ。家で待ってるから、お腹が空いたらご飯だって作るから……だから、お願い……遠くに行かないで。

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