親として⑦
薄暗い部屋の中で先生はひとりベッドの上にいた。王宮から逃げ延びれたが、このままでは、いずれ自分たちの居場所はバレる。これからどうするか、慎重に考えなくては……。とりあえず、この国を出よう。これ以上、仲間を危険には晒せない。
「先生……傷は大丈夫ですか?」
「ああ、平気だよ」
「せめて上着くらい脱いだらどうですか?」
仲間たちは、もうこの王国を出る準備をしている。心配なのは、シアーシャたちのことだ。自分たちと一緒に来るのか、それとも別々に行動することになるのか。それを決めるのはシアーシャ自身だ。だけど、側にいてほしい。母親として、我が子の身を案じるのは当然のこと。だけど、自分にはシアーシャたちを守れる力はない。どうすれば良い……。彼女は自分の側にいて幸せなのだろうか。
「シアーシャ……今、幸せか?」
「母親になって、子供も旦那もいて……例え偽物だとしても、家族は大事か?」
当然だ。バアルも、クリフもシアーシャにとっては大切な宝物だ。この生活は厳しいが、それでも幸せだ。だけど、時々わからないことがある。家族として、何もできていないんじゃないか……自分は本当に母親を演じきれているのか……と、自分の無知を痛感する時だってある。
「私も……よくわからないんです」
「わからないことはバアルさんが教えてくれるし、家族を守ってくれるのも任せきりで、クリフも大きくなって、色々手伝ってくれるから、歳の離れた兄弟のような感じもします」
「でも、クリフが笑ってくれると、心が温かくなって……幸せなんです。私たちの側にいて幸せなら、それで良いかなって……そう思うんです」
「おかしな話だな」
「所詮、お前たちは偽物の家族だと言うのに……」
「それは……」
「シアーシャ、悪いことは言わない。クリフたちを捨てて、私たちと一緒に来い」
「そんな……!」
「これは、お前の為なんだ。私はもう……お前と離れたくない」
何か言い返そうと、シアーシャが息を飲むと、勢いよく扉が開かれる。
「クリフ……!」
「母さん……どこかに行っちゃうの?」
「僕たちを置いて、遠くに行くの?」
「ち、違……」
「シアーシャ……お前に守れるのか? 家族を……大切なものを……」
正直、シアーシャにはクリフを守れる力があるのかわからない。だけど、ひとりぼっちにさせる気は最初からない。約束したんだから……。
「答えはすぐに決めなくていい……私も一日考えてみるから、明日にでもまた話そう」
シアーシャたちは、部屋を出て屋根裏に向かう。
「母さん……どこにも行かないよね」
「うん……どこにも行かないよ。私はクリフたちさえいればそれで良いから」
クリフたちと別れて先生と一緒に暮らすより、クリフたちの側にいたい。明日、なんと言われようとも、自分はクリフたちの側を離れない。せっかく先生と再会できたと言うのに……先生にとっても辛い選択になるだろう。だけど、約束したんだ……ずっと側にいると、そう約束したのだから。




