親として⑤
「嫌だ! 僕もお祭り行きたい!」
クリフの声が酒場中に響き渡った。その声は高く透き通った声色で、何度も続けて反響する。祭りに行けないのは可哀想だが、こちらにも理由がある。だけど、クリフはまだ子供、理由を説明しても簡単には納得しないだろう。
「お願いクリフ……言うことを聞いて。お母さんもお父さんも仕事で忙しいの……だから、ひとりで家に待ってて」
「なんで、お祭りに行っちゃダメなの? 僕だってナムタを見たいのに!」
「ごめんね……この仕事が終わったら好きなところに連れて行ってあげるから」
「もういい!」
「母さんなんて嫌いだ!」
「こら、クリフ。お母さんにそんな口聞いたらダメだぞ」
「うるさい! 父さんも嫌いだ! あっち行け!」
クリフがこうなったら、何をしても意味がない。年相応にわがままを言うのは構わないが、それを注意しなければろくでもない大人になってしまいそうで心配だ。多少荒くとも、ちゃんと叱らなければいけない……それが親と言うものだ。
「クリフ……わがままを言うんじゃない。これは仕方のないことなんだ。俺たちだってお前を祭りに連れて行ってやりたいが、それができないと何度言ったらわかる。お母さんの気持ちを少しは理解してあげなさい。お前もいつまでも子供のままでいるつもりだ。少しは大人になれ」
そう言っても、クリフは返事をしない。目線も合わせず、クリフは何も言わずに酒場を飛び出した。
「クリフ!」
外は雨が降っている。傘も持たずに外へ出れば風邪をひいてしまう。クリフが心配だ。どこに行ったのだろう。雨にうたれながら、シアーシャたちは街を散策する。
「クリフ! どこだー!」
見当たらない。一体どこに行ったんだ。バアルの言い方が良くなかったのだろうか。もう少し、優しい言い方をすれば、クリフも少しは考え直してくれたのだろうか。自分も歳を重ねて父親に似てきたな……。自分も父親になって少しは親父の気持ちがわかった気がする。子供を育てるのってこんなに大変だったんだな……。だけど、バアルは父親とは違う。同じ末路を辿る気はない。
「バアルさん!」
突然、シアーシャの声が聞こえた。
「どうしました?」
「これが……」
通路にはクリフの服が脱ぎ捨てられていた。その奥にも布切れが見える。まさか、人攫いにでもあったのだろうか。そんな予感をしながら、布切れの跡を追う。布服、ズボン、靴、靴下。全て拾い集めると自分たちの居場所がいつの間にか路地裏に迷い込んだことに気がつく。
行き止まりだ。通路の最後にはシャツが一枚落ちている。それを拾おうと近づいた時、突然、側の箱が動き出した。
「ばぁ!」
驚かそうとしたのか、クリフが下着姿のまま飛び出してきた。
「びっくりしたでしょー! 僕の罠にまんまと引っかかったな!」
驚きはしなかった。呆気にとられてマヌケな顔をしていたと思う。クリフが見つかった安堵から、表情が緩んだのだ。
「ふふ……」
思わず二人は笑いあげた。
「罠って……もう……変なことしないでよ」
「笑った! 母さんと父さんが笑った!」
「馬鹿……」
シアーシャはクリフの身体を抱き寄せる。
「心配したんだからね」
「……母さん?」
大きくなった。本当に大きくなってくれた。もうひとりでなんでもできるようになってしまったのか。ご飯をあげることも、オムツを変えることもできない。身体を抱きしめてクリフの成長を肌で感じる。クリフはいつか大人になって、自分たちの側から離れてしまう。嫌だ……離れたくない。ずっと側にいてほしい。
「このまま……ずっと一緒にいられればいいのにね」
「僕……どこにも行かないよ」
「そうだね……クリフはどこにも行かないよね」
「……約束だよ」
「うん……約束する……僕、母さんをひとりにさせないから。必ず守るから……だからもう泣かないで」
「うん……そうだね」
「もう泣かない……だって、私はクリフのお母さんだもん」
優しい子に育ってくれた。このまま大きくならなければいいのに……嫌なことも、辛いことも全部、変わってあげるから、幸せな人生を送ってほしい。世界中を敵に回しても、クリフのことを守ってみせるから……だからどうか、幸せに生きてほしい。そう願うのはわがままだろうか。




