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親として③

暗い街道をシアーシャは歩いていた。仕事終わりで身体がダルい。最近は寝不足のせいか、ロクに休めていない。それでも、がんばって働かなくてはクリフたちが困る。文句を言っている暇はない。


シアーシャたちは酒場の屋根裏住んでいる。仲間が大勢暮らしているせいか、空いている部屋がそこしかなかったのだ。部屋は狭いが三人でもなんとか暮らせる広さだ。少々ほこりっぽいが、快適だ。


今日は珍しく人の姿が少ない。きっと、みんな仕事に行っているのだろう。仲間たちを助けようにも自分たちの生活ができなければ意味がない。正体を隠して、働くのも大変だ。


そんなことを考えながら階段を登る。クリフはもう寝てしまっただろうか。


音を立てずに、ゆっくりと扉を開ける。


「母さん!」


突然、クリフが抱きしめる。


「クリフ、まだ起きてたの?」


「うん! 母さんが帰ってくるまで待ってたんだよ」


「ひとりで寝てていいって言ったのに」


「だって、ひとりだと寂しいんだもん。寝るなら母さんや父さんと一緒がいい!」


「そうは言ってもね。夜更かししたらダメだよ。夜更かしする悪い子はお化けに捕まっちゃうんだから」


「お化けなんて怖くないよ。父さんがやっつけてくれるもん」


「とにかく、今日はもう寝なさい。母さんが側にいてあげるから」


「やったぁ!」


クリフはベッドに飛び込み、毛布を被る。


「ねぇ、今日もお話ししてくれる?」


寝る前にお話をするのは、クリフとシアーシャの日課だ。昔話や、自分たちのことなど、色々なことを話す。シアーシャも話をするのが嫌いな訳ではない。だけど、最近は疲れが溜まっているせいか、早く身体を休ませたいのだが、こうもおねだりされると断れない。


「いいよ。どんな話が聞きたい?」


昔話でも、自分たちの話でもなんでも話してあげる。だけど、過去のこととは言え、話せないことも多い、自分たちが生贄の民であることや、クリフが拾い子であることは秘密にしている。それを理解していないのか、クリフは良く自分が生まれた時の話を聞きたがる。


「うーんとね……じゃあ、僕が生まれた時の話が聞きたいな」


「……またその話? どうしてそんなに気になるの?」


こう言われると何も言えなくなる。何度も誤魔化しているが、それが通用するのも長くはないだろう。


「父さんが言ってたよ。母さんと父さんは生まれた所が違うって。僕はどこで生まれたの?」


「それは……」


こう言う時、嘘をつくのが嫌になる。自分の子供なのに、隠し事をしているなんて、親として失格だとさえ思う。だけど、本当のことを言えばこの生活は終わる。それだけは避けたい。


「クリフはね……母さんたちが旅をしている時に生まれたんだよ」


「旅?」


「うん。母さんたちが故郷から離れて、旅をしている時に、クリフが生まれたんだよ」


「どうして旅をしていたの?」


「色々事情があったの」


「そっか……」


「じゃあ父さんと母さんはどうして結婚したの?」


「それは秘密だよ」


「えー……ケチ」


「もっと大きくなったら教えてあげるから、今は我慢して」


「わかったよ」


眠たそうにクリフは目を擦る。


「さ、そろそろ寝なさい。夜も遅いしこれ以上起きてたら身体に毒だよ」


「うん……わかった」


「いい子ね」


「ねぇ母さん」


「ん?」


「……どこにも行かないでね」


「どこにも行かないよ……ずっとここにいるから」


目を閉じて、クリフはすぐに眠った。いい子に育ってくれた。自分の子供なのに、嘘ばかり並べる自分が嫌になる。生贄の民だと言うことを知られないために、クリフには本当のことを教えていない。クリフはまだ小さい。大人の問題に子供を巻き込みたくない。だけど、それが嘘をついていい理由にはならないといつも思う。


「ただいま」


クリフが寝静まってバアルが帰って来た。


「おかえりなさい。ご飯は……」


「いい。食べてきました」


「……今日はどうでしたか?」


「特に成果はありませんでしたよ」


「ここ数年で、王宮の兵士たちも俺たちの動きを警戒している。このままだと、テムさんを助けるのを諦めて、奴隷になった人たちを解放するしかないかもしれない」


「そんな……」


沈黙が流れてシアーシャは考える。助けられるのならテムやみんなを助けたい。見捨てるなんて言う選択肢はシアーシャにはない。


その時、誰かが軽く扉をノックする。


「はい」


薄く扉を開ける、人影がひとつ。


「ふたりともちょっといいか」


「下に来てくれ。先生がお呼びだ」


なんだろう。先生が人を集めるなんて珍しい。とにかく今は自分にできることをしよう。みんな救ってみせるから。どんな手を使っても、助け出すから……だから、信じて待っていて。

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