親として①
「寝むれないんですか?」
宿屋にふたりはいた。ジェルドの好意で二人部屋を用意されたのだが、シアーシャは夜がふけてもなお、眠ろうとしない。
「少し……考えごとをしてました」
「お母さんのことですか?」
シアーシャは頷く。
「シアーシャさんはどうしたいんですか?」
「私は……クリフやバアルさんがいればそれで良いです」
「先生の側にいてもいなくても、二人がいてくれれば何もいりません」
「だけど、ジェルドさんたちのような無関係の人たちを巻き込みたくないんです」
「私……どうしたら良いんですかね」
「もう何もできないのは嫌なんです。王宮に囚われた友達がいるのに、何もしないで、ただ傍観して、事が終わるのを待つだけなんて嫌です」
「……怖いんです。私の選択で大切な人を失ってしまうんじゃないかって……もう、大切な人を目の前で失いたくないんです」
「シアーシャさんは、優しいですね」
「自分のことよりも、いつも他人のことを思って……人のためにできることを考えている。そんなこと簡単にはできませんよ」
「私には、それくらいしかできませんから……」
「いつも人の役に立とうとして、私も誰かの役に立ちたかった」
「先生は私のことを厄介に思ってたんですかね」
「血の繋がりのない私を育てたのも、ただの同情だったのかな……」
「それは、シアーシャが決めることじゃありませんよ」
「話し合えばきっと理解してくれるはずですよ。だって、二人は家族なんですから」
「家族……」
「バアルさんは、悲しくないんですか? ご両親をシルド王国の人に殺されて、ひとりぼっちになったのに……どうして平気でいられるんですか?」
「俺は、シルド王国の連中を許したことなんてありませんよ。俺の家族を殺した恨みはずっと心の中にある。殺したい……復讐したい……悲しい……辛い……そんな気持ちを抱えながらでも、その感情を抑えきれず悩むことだってあります」
「俺たちは特別じゃない。なんの変哲もないちっぽけな人間なんです」
「だからこそ、誰かと些細な喧嘩をすることだってある。親だからと言って完璧である必要はないんですよ。失敗もする。間違いもする。それでいいんです。それが人間と言う生き物なんですから」
バアルの言葉は、聞いてて安心する。バアルの言うとおり、自分はただの人間だ。喜んだり、悲しんだりする平凡な人間。それは、先生も同じ。あの時、なぜ先生の言葉を理解しようとしなかったのだろう。先生も、不安だったはずだ。もっと冷静でいればあんな別れ方をしなかったのに……。情けない。感情に支配されるなんて自分らしくない。きっとそれほど、自分がクリフたちを思っていたのだろう。だからこそ、先生の言葉に反論した。これ以上、自分を責めても意味がない。
「バアルさん……ありがとうございます」
「明日……また、先生と話してみます」
フッと心が軽くなったような気がした。もう間違えない……後悔しないように、自分の気持ちを伝えよう。きっと先生も受け入れてくれるはずだ。きっと……。




