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プロローグ④

ナムタが飛んでいる。翼を持った巨獣が。


村の泉で洗濯をしている少女はひとり、その光景を眺めていた。あの風に抱かれながら空を飛ぶのはどれほど気持ち良いことなのだろうか。


「シアーシャ!」


突然、空から聞き覚えのある声がした。


「テム……」


「何してるの? お洗濯?」


「う、うん。先生に夕方になるまでには終わらせとけって言われてて」


「そっかぁ……暇してるなら一緒に遊ぼうと思ったのに」


「テムはナムタと訓練中?」


「そうそう。ラミューがたまには訓練しろってうるさくてさー」


ラミューと言うのは彼女のナムタの名前である。


「ね、シアーシャはまだナムタに乗ったことないんだよね?」


その問いに、シアーシャは少し戸惑った。シアーシャはナムタに乗ったことがない……否、乗れないのである。獣の言葉がわかる生贄の民(アデム)は、幼少の頃からナムタと共に育つ。互いに強い絆で結ばれた獣と人は種族の垣根を超えた関係を持つと言われている。だが、シアーシャには自分のナムタがいない。シアーシャには獣の声が聞こえないのだ。


「……ないよ。それがどうかしたの?」


「なら、一緒に乗ろうよ! 私と一緒なら声が聞こえなくても落っこちないでしょ?」


「え、でも……」


「いいじゃないちょっとくらい。村の年長たちにもバレないよ」


「む、無理だよ……」


「シアーシャの言うとおりだ」


と、もう一つ若い男の声がした。


「テム……何やってるんだよ。遊んでたら訓練が終わらないぞ」


「ジノ……!」


ジノの姿を見てシアーシャは少し動揺した。髪の毛を直しながら頬はほんのりと赤く染まっている。ジノの前にいると、変な気分になる。高揚して、心臓がドキドキと鼓動する。


「シアーシャ、おいで!」


「飛んでおいで!」


「ぁ……わ……私には、無理……」


「弱虫!」


あははと、高く笑いながらテムは空へと飛んでいく。


「あ、おいこら、待て!」


「シアーシャ。キミが気にする必要ないからね」


「全く……あのじゃじゃ馬娘は……」


そう言うジノの顔はどこか楽しげで、その笑顔が自分に向けられた笑顔ではないと理解した時、シアーシャは途端に寂しくなった。落ちこぼれで、親のいない孤児である自分なんて……彼に相応しくない。だけど、これだけは言える。シアーシャはジノのことが好きだ。その思いに偽りはない。これからも……ずっと。

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