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王国⑥

二日ほどかけて馬車は進む。所々、見慣れた光景が見える。そろそろ、シアーシャの故郷についても良い頃合いだ。


故郷に帰るのも数ヶ月ぶりだ。


「よーし到着だ」


馬車から降りて、村を一望する。外側から見ると、特に大きな被害があったようには見えない。人の死体も、荒らされた形跡もない。なのに、人の気配がまるで感じられない。


「ここが嬢ちゃんの故郷か、にしては人が全然いねぇな」


「不気味ですね……人の死体がないのに、ここまで静かなんて」


バアルの言う通り、村は異様な雰囲気を纏っていた。きっとみんなはどこかに隠れているんだ。きっとそうだ……そうに違いない。


「誰か! 誰かいませんか!」


「私です! シアーシャです! 隠れているのなら出てきてください!」


その言葉に返答する人間はひとりもいない。


「もしかしたら、みんなシルド王国の連中が攻めてくる前に逃げ出したんじゃないのか? ほら、ナムタを使って遠くに逃げることだってできるだろ? きっとみんな生き延びたんだよ」


確かにその可能性もある。きっとみんな無事だ……そうに違いない。どこかで生きているはずだ……だって、誰も死んではいないんだから。故郷が攻められたと聞いた時は焦ったが、余計な心配だったかもしれない。


馬車に戻ろうと、足を引いたその時、シアーシャは足を止める。


今、何かが見えた。


なんだろう。


視線がまっすぐと伸び、その先に黒い影が横切った。


「あれは……」


間違いない。人だ。


思わずシアーシャは走り出した。


「あ、おい! どこに行くんだよ!」


良かった、生きている人がいた。その安心感から胸が躍る。人影が進んだ方向は家の中。


その人影を追って、シアーシャも家の中に入る。


「あ?」


家の戸を開くと、そこには人相の悪い男が酒を片手に椅子に座っていた。おそらく手に持っている酒はこの家のものだと思う。野盗だ。


「誰だお前?」


「何見てんだよ。俺に何かようか?」


「あ、いえ……」


物盗りか。村の人間じゃ無かった。


「その姿……お前、この村の人間か」


「……私たち一族のことを知っているんですか?」


「ああ……知ってるさ」


男の容姿は、白髪に赤い瞳だ。服装は違うが、生贄の民と同じ身体の特徴……まさか……。


「アナタも……生贄の民なんですか?」


「半分だけだがな」


「人がいなくなったと聞いて稼ぎ時だと思ってきてみたが……まさか、生き残りがいたとはな」


「生き残り?」


「なんだ、知らないのか? お前、生贄の民だよな」


「そうですけど……訳あって、村から離れていたので、何があったのか知らないんです」


「教えてくれませんか……この村で何があったのか」


「あんまり、気持ちのいい話じゃねぇぞ」


「構いません。教えてください」


男は酒をひとくち飲みこんで、口を開く。


「奴隷落ちしたんだとさ。村人全員な」


「シルド王国の連中が、攻めてきて最初は抵抗しようとしたらしいが、戦力差がありすぎてすぐに降伏したらしい。そのあと、生き延びた人間全員が奴隷として売りに出されて、ナムタは一匹残らず王国の所有物になった」


「胸糞悪りぃ話だろ」


「なんの罪もない人間が、なんでこうも不幸にならなくちゃいけないんだろうな……世の中、腐り切ってやがる」


「アンタもさっさとここから離れた方がいい、夜は野盗や暴漢が出やすいから、移動するなら今のうちだ。俺も同胞が死ぬのは見たくねぇからな」


親切な人だ。物盗りにもこんな人がいるのか。きっと、彼にもそうならざるを得ない理由があったのだろう。彼の優しさに感謝をしながら、シアーシャは村を後にする。また、必ず……この村に帰ってくるから、みんなと一緒に……。

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