王国へ④
まだ日が登る少し前。ジェルドとバアルたちは、荷物の準備をしていた。王国まで商売に行く準備はかなり体力を使う。荷台いっぱいに積荷を乗せるだけなのだが、簡単には終わらない。
ジェルドはこの仕事に慣れているのか、曇った表情ひとつ見せずに、仕事を終える。
自分たちも荷物を持って、荷台に乗る。
「準備できたかい?」
「ええ、いつでも出発できます」
「気をつけ行ってくるんだよ。怪我せずに帰っておいで。クリフのこと守ってあげなよ」
まだ朝は早いと言うのに、バアルたちを見送る為にディナは早起きをしていた。自分たちの為にそこまでする必要はないのに……いや、そんなことを言うのは失礼か。
「ディナさんも身体には気をつけてくださいね」
「おや、私の心配をしてくれるのかい。兄ちゃんは優しいね。どこかの誰かと違って」
「それ……俺のことか?」
ジェルドが問いかける。
「さぁ、どうだろうね」
「早く行っておいで、土産話、楽しみにしてるよ」
「はい。行ってきます」
馬車が動き出し、バアルたちはディナに手を振る。やがて、その影は小さくなっていき、いつの間にか見えなくなっていた。
「ジェルドさん」
シアーシャがジェルドの名を呼ぶ。
「なんだい?」
「シルド王国に行く途中、よって欲しいところがあるですけど……その、少し寄り道をしても良いですか?」
「別にかまわねぇけど、どこに行くんだい?」
「生贄の民の故郷に……」
「故郷? 嬢ちゃんが暮らしてた村のことかい?」
「道はわかるのか?」
「はい……」
「なら、良いが。そこまで長居はできないぞ」
「かまいません」
「……わかった。それじゃあ路線変更だな」
生贄の民の村はシルド王国からそこまで離れている訳ではない。少しくらいなら、村に寄れる時間はあるだろう。とにかく、今は村がどんな状況か把握したい。シルド王国に攻め滅ぼさたのが本当か、見ておかなくては……。
「シアーシャさん。本当に、故郷へ戻るんですか?」
「はい……私は戻らなくちゃいけないんです。私には……待ってくれている"家族"がいるので」
その言葉に、バアルは眉をひそめる。しまった。今のは失言だったか……。
「あ、ごめんなさい……つい口走っちゃって……」
「別に気にしてないですけど、覚悟しておいた方がいいですよ」
「覚悟……?」
「もし、故郷が攻め滅ぼされたのが本当だとしたら、見たくもないものまで見てしまうかもしれません。それを受け入れる覚悟が、あるんですか?」
「……正直、まだわかりません。だけど、家族や友達が死ぬことも、ナムタや村のみんなも生きているかわからないことも、他人事で終わらせたくないんです。何も知らないまま、自分だけのうのうと生きるなんて、そんなことしたくないんです」
「そうですか……」
そうして、バアルは目を閉じた。彼はそれ以上語ろうとしない。仮眠を取るのか、呼吸が深い。自分も少し眠ろう。何を見ても、受け入れる準備をしなくては。大丈夫……きっと大丈夫だ。みんな、どこかで生き延びているはずだ。今はそう信じるしかない。彼らの為に今は祈ろう。少しでも、救われるように……。




