王国へ③
家に帰ると、ディナとミゲルたちが朝食を作り終えたところだった。優しいチーズの匂いと、香ばしいパンの匂いが鼻筋を撫でる。
「おかえり。朝食できてるよ。さっさと食べちまいな」
準備をしているディナを横目に椅子に腰掛ける。今日の朝食は、加工したばかりの溶けたチーズに黒パンだ。豪華とは言えないが、これだけでも充分な朝食だ。
「さて、みんな揃ったね……それじゃあ」
「いただきます!」
チーズのかかった黒パンを頬張る。口の中に濃厚なチーズの味がとろけるように広がる。美味い。加工したてのせいか、味が良い。乳臭くないし、味も濃い。クリフやニーナはまだ小さいからチーズを食べることはできないが、にんじんをすりつぶした離乳食を美味しそうに頬張っている。
「クリフは美味しそうに食べるね。クリフの食べっぷりを見てるとなんだかこっちも嬉しくなるよ」
「ちゃんと食べてくれるのは嬉しいんですけど、大食いですから、食べ過ぎで身体を壊さないか、ちょっと心配なんですよね」
「良いことじゃないか、食べない子よりたくさん食べる子の方が余計な心配もしないしね」
「そう……ですかね」
「あ、そういえば兄ちゃんたち、今週は暇かい?」
突然、ジェルドが口を開く。
「……暇と言えば暇ですけど、何か用事ですか?」
「実は、ひとつ兄ちゃんに護衛を頼みたくてな」
「俺に護衛を?」
「ああ、シルド王国にちょいと商売をしに行くから、道中、兄ちゃんに守ってもらえないかなと思ってな。と言っても、仕事ばかりさせる訳じゃない。軽い旅行をしに行くみたいなもんだ。もちろん嬢ちゃんやクリフと一緒に来てくれてもいい。どうだい? たまには家族で出かけるのも悪くないんじゃないかい?」
バアルは、少し考える。確かに、シアーシャやクリフと出会ってから、家族として何かをしたことなんてなかった。シアーシャや自分にとっても良い気分転換になるかもしれない。だけど、家族を殺した奴らが住む領地に行くのには気が引ける。あの日の恨みが消えた訳ではないが、そんな理由を抜きにして、せっかく家族らしく楽しめる話を持ちかけてくれたジェルドの好意を裏切ることなんてできない。この話、悪い話ではない。だが……。
「俺は行っても良いですけど……シアーシャさんはどうします?」
シアーシャの答えは決まっている。シルド王国に行けば、ジノやテムのこと、故郷が攻め滅ぼされたのか情報も集めやすい。シルド王国に行くのなら故郷にも寄れる、この手を逃す気はない。
「迷惑じゃなければ……私も行きたいです」
「よっしゃ、決まりだな」
「気をつけて行ってきなよ。シルド王国は治安が良いとはいえ、最近はあっちも色々ときな臭いからね」
「きな臭い?」
「ああ、近々、また戦争をふっかけるんだとさ。今回もナムタを使って領土を拡大させる気なんだろう」
ナムタを利用して……。シアーシャはその言葉が悔しくてたまらなかった。あの子たちを戦争に利用して理由もなく傷つけるなんて間違っている。戦争なんかして何になると言うんだ。
「ま、とにかく気をつけて行ってきなよ」
「お土産待ってるからね!」
ミゲルの言葉にディナは頭を叩く。
シルド王国に行って自分の目で確かめなくては、残された仲間たちの為にも、ほんの少しだけでも力になりたい。今度こそ救ってみせる。もう奪わせたりしない……絶対に。だから待っていて……必ずみんなを救ってみせるから。




