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翼の折れた巨獣④

朝になって、バアルは目を覚ました。朝日の虹彩が薄いまぶたを照らし、顔をしかめながら、何度か瞬きをする。まだ意識がハッキリしていないのか、頭の中がボンヤリとしている。


身体が重たい。全身が悲鳴をあげている。身体を起こそうにも、まるで根っこが生えたように、ベッドの上から動こうとしない。何かが自分の身体に覆いかぶさっている感覚がする。一度、身体を動かすことを諦めて視線を下げてみる。


包帯に巻かれている自分の姿が映るが、バアルの視線は包帯よりも別のものに向いていた。目の前にはバアルの身体の上でうつ伏せになってスゥスゥと寝息を立てるシアーシャの姿があった。


「おや、起きたのかい?」


シアーシャを起こさないよう配慮しているのか小声で、ディナが話しかける。


「意識が戻って良かったよ。アンタ、獣に襲われてから丸一日寝てたんだよ」


「そうだったんですか。すみません、怪我の治療までしてくれて……」


「包帯を巻いたのは私じゃないよ」


「え?」


「全部嬢ちゃんがやったんだよ。アンタが目を覚ますまで、側にいるって、私らの言うことなんて聞きやしなかったんだから」


「そう……だったんですか」


「自分で起きれるかい?」


「いえ……あの、ちょっと手を貸してくれませんか?」


「あいよ」


ディナの手を取り、思いきり引き寄せられる。重たい身体がフッと軽くなった気がした。


「……んん」


シアーシャが、小さな声を漏らす。


「この子、ずっとアンタを看病してたんだよ」


「夜中もずっと寝ずに、クリフの面倒を見ながらアンタのことを心配して、本当に、出来た嫁さんだよ。アンタも目が覚めたら礼のひとつくらい言っときなよ」


不思議な人だ。所詮、自分たちは偽物の家族だと言うのに、ここまで自分のことを思ってくれるなんて……お人好しなのか、警戒心がないのか、どのみち、いつかは別れがくると言うのに。優しい人なのだろう。この優しさが、危険な方向に向いてしまうこともあるだろうに。実際、その優しさのせいで、バアルは傷を負った。彼女のせいではないと言うことはわかっている。しかし、その優しさにつけ込む悪人もこの世にはたくさんいる。どうか、その優しさが利用されないことを祈るばかりだ。


このままベッドから出て、外の空気でも吸いたいところだが、このまま身体を動かせば、シアーシャは目を覚ましてしまうだろう。夜中まで面倒を見てくれたんだ。もう少しくらい休んでいてほしい。


もう一度、ベッドの上に横になって、バアルは目を閉じる。ボーっと暗闇を眺めながら、再びバアルは眠りにつくのだった。

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