翼の折れた巨獣②
「ダメだね……全身酷い傷だ。奇跡的に骨は折れてないから、生活に支障はないだろうけど……安静にしてなきゃ、いつ悪化するかわかったもんじゃない」
ジェルドの家のベッドの上で、バアルは横になっていた。呼吸が浅いせいか、死んでしまっているのではないかと思うほどに、弱りきっている。
「お兄ちゃん……死んじゃうの?」
「死なないさ……こんな所で死んじまうほど、やわな男じゃないよ。きっと大丈夫さ……」
「バアルさん……ごめんなさい」
シアーシャはバアルの手を握りながら囁いた。せめて、助けてくれた感謝くらい言わせてほしい。だから、お願い……目を覚まして。このままひとりにしないで。
「おい、お前」
ナーヴェがシアーシャに静かに問い詰める。
「あの時、なぜ獣を止められなかったんだ。生贄の民は獣の言葉がわかるんだろ?」
「ごめんなさい……私のせいで貴方まで危険な目に遭わせてしまって……本当にすみませんでした」
「俺は謝罪が欲しいんじゃない。理由を聞いているんだ」
「あの獣は一体なんなんだ?」
「それは……」
「言えないのか?」
「あの子は……あの獣は、ナムタと言って、私たち生贄の民と暮らす巨獣なんです。私たち生贄の民はナムタと言葉を通じて生活しています。普通……生贄の民なら獣の言葉がわかるんです。だけど……私には、獣と話す力が無くて……赤ん坊を連れているあの子と自分を重ねてしまって……もしかしたら、奇跡的に声が通じて、殺さずに解決できないかと思って、あんなことをしてしまいました」
「そうか……」
クリフの泣き声が部屋を包む。
大切な女性をひとりにさせる男なんていない。何もできずに、寝ているだけなんて、悔しいだろうに。だから、ここでくたばるなよ。
ナーヴェは、何も言わずに家を出ようとする。
「どこに行くんだい」
「決まってる……あの獣を殺してくる」
「無茶だよ……こんなことを言いたくはないが、アンタにあの獣を狩れるほどの腕はない」
「わかってる……だけど、誰かが行かなきゃいけないんだ」
「もう、何もせず何かを失うのは嫌だ」
「止めても無駄だ。俺は行く」
そっと、扉が閉められナーヴェは雪道を歩く。彼の行く先はひとつ。ナーヴェは剣と弓を携え、巨獣の待つ森へと歩む。復讐の火を灯しながら。ひとり静かに、闇の中へ沈んでいくのだった。




