母親と父親①
「母親がどういうものかって?」
シアーシャの発言にディナが返答する。クリフを拾って母親を演じるようになってから数日が経った。この生活にもだいぶ慣れてきて、クリフの身の回りの世話は自分ひとりでもできるようになったのだが、まだわからないことも多い。シアーシャには、母親というものがどんな存在なのか、子供をどう育てれば良いのかわからない。
母親として自分にできることはなんだろうか。その疑問を、ディナに問いかけている。
「……私には、両親がいないので、母親がどういう存在なのかわからないんです。せめて、母親として子供をどう育てればいいのか教えてくれませんか」
「そう言われてもねぇ……私も、母親になって何年か経つけど、そんなこと一度も考えたことがないから大した答えは出せないよ」
「そうですか……」
「そんなに堅苦しく考える必要なんてないよ。私からひとつアドバイスをするなら、まずはそうやってひとりで考える癖を無くすことだね。まずは、身近な人から頼りなよ。今、私に相談するみたいにさ。アンタには旦那がいるんだから、たまには頼りにしてやりなよ」
「バアルさんに……」
シアーシャは考える。確かに親のいない自分なんかより、親と言う生き物のことを知っているだろう。だけど、バアルはシルド王国に両親を殺されている。そこを踏み込んで聞けるほどの度胸は自分にない。
仕方ない。次はバアルにでも話を聞いてみようか。そんな考えがよぎった時、ディナが口を開く。
「私も歳をとったせいなのかね。最近じゃあ人様に口出ししてばかりで、自分たちのことを考えることもできなくてね。アンタに口うるさくものを言えるほど、私も偉くないのさ」
「私も神さまに聞きたいよ。ちゃんと立派な母親になれてるのかってね」
ディナも同じだ……。ディナのような人間でも、母親になれているのか悩んでいるんだ。そのことがほんの少しだけ嬉しかった。悩んでいるのは自分ひとりじゃない。それだけでも、嬉しい。
「ディナさんは……ちゃんとお母さんになれていると思いますよ」
「そうかい? そう言われるとちょっと嬉しいね」
「……私も、ディナさんみたいなお母さんが欲しかったな……」
「そんなこと言わないでおくれよ。アンタの親子さんが聞いたら泣いちまうだろ」
「そうですね……」
「ごめんなさい。今の聞かなかったことにしてください」
せめて、腹を痛めて産んだ両親に顔向けできるよう、精一杯、親を演じることしかできない。この悩みが消えるわけではない……自分は一体どうすればクリフの親になれるのだろう。
そう考えてシアーシャは外へ出る。シアーシャはクリフを拾ってから考えることが多くなった。バアルのように家族を守れるわけでもない。せいぜいできることと言えば、クリフをあやすことくらいだけ。ダメだな。考えてばかりで答えが見つからない。とりあえず、今はこの嘘を続けなければいけない。
シアーシャは嘘をつくのが苦手だ。バアルのように頭の回転が早いわけでもない。嘘をつくのが悪いことだと理解しているせいか、中々、嘘に慣れない。このままでは、いつか嘘がバレてしまう。嘘をつくのにも慣れておかなければいけないな。
シアーシャは外の空気に触れながらそう思った。




