過去と運命⑥
酒場は人で溢れていた。それほど大きな村ではないはずなのに、酒場には旅人や村人たちといった大勢の姿があった。
「嬢ちゃんこっちにもエールを頼む」
「はーい!」
カウンターに置かれた料理を持って、シアーシャは人混みを掻き分ける。思っていた以上に人が多い。この近くには宿屋もある為か、人が集まりやすいのだろう。忙しいが、苦痛には感じなかった。働くことも酒場に来ることも初めてだったが、思いの外、自分の性に合う。
「若いのに立派なもんだねぇ……」
「何がだ?」
「あの子だよ。あの歳で子供こしらえて、旦那と一緒に家庭を支えてるんだとさ……普通あれくらいの年頃なら、わがままを言ったり、愚痴のひとつやふたつくらいあるだろうに、それを堪えて、必死に頑張って働いて偉いもんだよ」
「そうか? 母親なんてみんなそんなもんだろ」
「阿保が。お前は子供を育てたことがないからそう言えるんだ。いいか、子育てって言うのは赤ん坊の面倒を見るだけじゃない。家族を愛する『愛情』、子供を独り立ちさせるための『自立』、子供の成長を見守る『姿勢』。それが子育てってもんだ」
「ふぅん」
「理解してないだろ」
「まぁな」
「コイツ……」
「でも、あの子、居候の身だろ?。ジェルドのところで預かってるって聞いたぜ。ここいらの一族の人間じゃないらしいな」
「そうなのか?」
「髪色や瞳の色でわかるだろ。たぶんあれは、生贄の民の生まれだ」
「生贄の民……確か、最近シルド王国の連中に侵略されたんだろ?」
「そうそう……どうやら、太公に嫁ぐ花嫁を取り返そうとした男が王国の連中に捕まったらしい」
ふと、シアーシャは足を止める。
「何もしなけりゃ無事だったものを……そんなことをしたら、王国で処刑されるって言うのにな」
「……あの!」
シアーシャは、話をしている客に声をかけた。
「その話……本当ですか?」
「え?」
「さっき、生贄の民の男の子が捕まったって……」
「あ、いや……俺たちも噂でしか聞いたことがないから、本当かどうかは知らないな。ごめんよ。こんな話、嬢ちゃんの前ですることじゃなかったな」
「いえ、私の方こそ……勝手に話を遮ってしまってごめんなさい……」
「シアーシャ! ボーっとしてないで、注文をとってこい!」
「は、はい!」
「すみません……お話の邪魔をしてしまって」
「いやいや気にしなくて良いよ。仕事、頑張りなよ」
客は席を立とうとした。その帰り際、シアーシャのポケットを掴み、何かを忍ばせた。
ふと視線を下げると銀貨が三枚、ポケットの中に入っていた。
「え、あの、お金なんて受け取れませんよ」
「いいよいいよ。とっておきな。良い働きぶりだったから、その礼だよ」
「色々大変かもしれんが、頑張れよ」
客はシアーシャの言葉を気にせず、外へ出る。
「ありがとうございます!」
「シアーシャ! エールができたぞ!」
「はーい!」
「シアーシャ。こっちにも同じの二つ頼むぞ」
「は、はい!」
シアーシャは軽く尻を叩かれ、顔を赤く染める。
「いいケツしてんなぁ。シアーシャは」
「おい、馬鹿。人妻に手ェだして、嫁さんに怒られてもしらねぇぞ」
店には客の笑い声や話し声が絶え間なく続いていた。その空間がシアーシャは好きだった。夜だけど、寂しくない。その空気が、自分を変えてくれるような気がして、心地よく感じるのだった。




