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過去と運命③

バアルは森の中にいた。枯れた木が鬱蒼と並び、視界が遮られる。矢を添えて弓を構えながら周囲を見回す。今はジェルドに紹介された村の男たちと共に、森の周辺を探索して行方不明者の痕跡を探している途中だった。


「すまないねぇ兄ちゃん。こんな年寄りたちのために早朝からわざわざ手伝ってくれて」


「いえ、お気になさらず。俺にできることと言えばこれくらいしかありませんから」


「いやいや、兄ちゃんがいてくれるおかげでこっちも大助かりだよ。ジェルドから聞いたよ。アンタ狩人なんだってね。この村には狩人がひとりしかいないから、春になると熊や猪に作物を喰われても何もできなくてね。毎度毎度、街から狩人を連れてくるのも迷惑だからってんで……街の狩人たちから仕事を断られるようになって、自分たちでなんとかするしかなくなったんだ」


「ま、とにかく。頼りにしてるぜ。兄ちゃん」


そう言うと男性は、力強く背中を叩き、軽く笑い声を上げる。


「……ケッ。よそ者のくせに随分といいご身分だな」


ひとりの若い村人が不機嫌そうに、鋭い言葉を浴びせてくる。


「村の年寄りに期待されてるからっていい気になるなよ。俺はお前のことなんて信用してないからな。この村は俺たちの村だ。土足で俺たちの村に来るんじゃねぇ。お前がいなくたって村一番の狩人である俺がいれば問題ないんだよ。お前はさっさと家に帰って、ガキのおしめでも変えてろ」


「ナーヴェ! 貴様、せっかくワシらの為に力を貸してくれた恩人に対して何という口の聞き方だ!」


「こんなひ弱な奴に何ができるんだよ。どこの生まれかもわからない馬の骨に、狩りができるかよ」


「いいか素人さんよ。ひとつ教えておいてやる。狩場では、俺の指示に従え、でなきゃ死ぬぞ?」


ナーヴェは、自分の腕に余程の自信があるらしい。狩猟の民として、狩りの腕を侮辱されるのは我慢できない。しかし、自分の本音を押し殺して、バアルは怒りを鎮める。


「忠告、感謝します」


その短い言葉に、青年は不機嫌そうに舌打ちをした。


「すみません。口の悪い子で」


後ろから老年の男性が頭を下げる。


「あの子、口は悪いですが根は優しい子なんです。両親を幼くして亡くした頃から、ああやって自分の感情を制御しきれないのです」


「ご両親が……」


流行(はや)り病でしてね。この村には医師もいないし、街から連れてくるとなると金が必要になる。あの子の家は裕福な家庭ではなかったので、医師を呼ぶこともできずに、ひとりぼっちになってしまったのです」


「見捨てられたと思っていたのでしょうね」


「誰から見てもあの子の両親は手遅れで、村人も誰も助けようとしなかった。けれど、あの子はそれでも両親を守ろうとした」


「どうか……あの子を憎まないであげてください」


老年の男性はどこか寂しそうにナーヴェのことを語った。おそらく、過去に助けられなかったナーヴェの両親たちに負い目を感じているのだろう。その姿に、バアルは何も言葉をかけれなかった。


「さて……こんな所で無駄話をしている場合ではありませんね。行きましょうか」


老年の男性が歩き始め、バアルもそれに続く。降り積もった雪を踏み、軽い足音が森の中に木魂した。

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