表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/61

過去と運命②

「ミゲル。ちゃんと羊たちにエサをやるんだよ。またサボって遊んでたらお仕置きだからね」


「分かってるってば」


「あんた前に、足場を滑らせて大怪我したでしょ。また怪我するんじゃないよ」


「……一体、何年前の話をしてるんだよ」


家畜小屋に入ると、独特な臭いが鼻を撫でる。羊と牛と馬の糞や尿が混じっている生暖かい臭い。鼻を摘むほど臭くはない。小さな頃からこの臭いを嗅いでるせいか、ミゲルにとってこの臭いは、家畜の臭いだと脳裏に記憶されている。


「我こそは至高の騎士ミゲル! 友よ心配するな、我が槍にかけて勝利を約束しよう」


フォークを振り回しながらミゲルは餌を振り撒く。


「せい! やぁ! とう!」


「その程度の動きで我が槍に勝てると思ったか! 甘い!」


「貧弱ものめ、これでとどめ――」


「――ふふっ」


誰かの笑う声がして、ミゲルは動きを止める。


ふと、外を見てみるとそこには、朝の散歩から帰ってきたシアーシャとクリフがいた。


徐々にミゲルの体温が上がっていくのがわかる。


「あ……み、見たな!」


震えた声でミゲルは叫ぶ。


「お願い、誰にも言わないで! 母ちゃんにも、父ちゃんにも! こんなことしながら、サボってることがバレたら、絶対馬鹿にされる」


「そうかしら。私から見たらすごくカッコよく見えたよ」


「ほ、本当に?……もしかして馬鹿にしてる?」


「本当のことだよ。まるで本物の騎士様みたいだった」


「そ……そう言われると……ちょっと嬉しいけど。子供っぽいって思ったでしょ」


「全然。好きなことに夢中になるのは素敵なことだよ」


「……そうかなぁ」


「ミゲルは、騎士様が好きなの?」


「好きって言うか……目標って言うか……」


口ごもってミゲルは黙った。


「今から話すこと……誰にも言わないって約束してくれる?」


「え?」


「約束して!」

 

「う、うん。わかった。誰にも言わないよ」


少し緊張しているのか、体が震えている。ミゲルにとって、自分の夢を語るのは初めてのことだった。馬鹿にされるかもしれない、お前には無理だと否定されるかもしれない。だけど、シアーシャなら、ミゲルのことを何も知らないし、そんなことを言う人ではないと、勝手に期待していた。


「俺……騎士になりたいんだ」


「騎士に?」


「昔、王国で見たんだ。カッコいい鎧に身を包んで、お姫様や王様だけじゃなくて、戦うことのできない弱い人たちを守るあの人たちがカッコよくて……周りの人たちから尊敬されている姿に憧れたんだ……」


「素敵な夢だね」


「こんなこと言ったの……シアーシャが初めてだよ」


「そっか……」


「ありがとう。勇気を絞って話してくれて」


シアーシャはそう言って、手を握ってくれた。その時、ミゲルの手は無意識に震えていた。優しい人だ。表情も性格もシアーシャには陰りがない。もし自分がもう少し歳を兼ねていたら、絶対に恋をしてしまっただろう。


「勘違いしないでよ! これはシアーシャだから話したわけじゃないんだからね! シアーシャが聞きたがってたから仕方なく話しただけだ!」


恥ずかしくて、逃げ出したくて、ミゲルは家畜小屋の外へと走る。


「俺、シアーシャのことなんて好きじゃないからな! 惚れたりなんかしてないからな!」


そう言って、ミゲルは家まで走った。こんな気持ち初めてだ。心がドキドキして、苦しい……けど、辛くない。むしろ、心地いい。


「誰のことが好きだって?」


だが、その気持ちもその声で綺麗さっぱり消えてしまった。


「か、母ちゃん……」


「また、サボってたね?」


「ご、ごめんなさい!」


ミゲルの耳を引っ張りながらディナは、身体を引きずらせる。


「ごめんね。シアーシャ。うちの子が変な気起こしちゃって」


「いえいえ……男の子はこのくらい無邪気な方が可愛いですよ」


「だからと言って、仕事をサボって良い理由にはならないけどね」


ディナがミゲルを睨みつける。


「なら、私もお手伝いしましょうか?」


「いいのかい?」


「ええ。居候の身ですし、何かできることがあれば手伝わせてください」


「とは言われても……うちはもう人手が足りてるから……何かをさせようにもないものはないからねぇ」


「……あ」


しばらく考えて、ディナは何かを思い出したかのように声を漏らした。


「シアーシャ。アンタ接客は得意かい?」


「接客?」


「知り合いに酒場を経営している奴がいてね。この村で唯一の酒場なんだが、ちょっと前に人手不足で経営も厳しいってんで、せめて一人でもウェイトレスが欲しいって愚痴ってたんだよ」


「そこで雇ってもらえれば、旅費を稼ぐのにもちょうどいいんじゃないかい? 仕事の時は、私がクリフの相手をしておいてやるからさ」


「そんな場所があるんですか! 接客をしたことはないですけど……ぜひ紹介してください!」


「決まりだね。おいで、今から案内するよ」


「はい!」


もし酒場で働けるようになれば情報も集めやすい。生贄の民の村がどうなったのか……生きている人間がいないか……。今の自分には、テムやジノが無事なことを祈ることしかできない。自分は無力で、何もできないちっぽけな存在だ。それでも、必要としてくれる人たちがいる。その人たちの為に、今はどんなことでもやらなければいけない。もう……ひとりぼっちじゃないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ