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ひとりぼっち

「おーい帰ったぞー」


家に着くと、ひとりの母親と子供が三人いた。子供のひとりはまだ生まれて間もない赤ん坊で、母親の腕の中で眠っている。


「おかえり」


「父ちゃん! おかえりなさい!」


「なさい!」


「おう、ただいま。お前たち、ちゃんと母ちゃんの言うことを聞いていい子にしてたか?」


「してたよ! ね、母ちゃん!」


「ふふ……さあ、どうだろうね」


「ねぇ父ちゃん。お土産は?」


「ちゃんと買ってきてるよ。家に入るまで少し待て」


「えぇー今が良い、今欲しいの!」


「欲しいの!」


「わがまま言うな」


「ケチー」


「けちー」


「言ったな? そんな子には、お土産は渡さないぞ」


「ミゲル、リーグ。お父さんを困らせるんじゃないよ」


「はーい……」


ミゲルとリーグは、顔をしかめて母親の言葉に従う。ふと、馬車の方に視線をうつすと、ちょうど馬車を降りたシアーシャとバアルの姿を、母親は一瞥する。


見たことのない男と女と赤ん坊だった。


「誰だいアンタら」


そう女が呟くと、それに続くようにジェルドが言う。


「客人だよ」


「客人?」


「野盗に襲われて死にかけていた所を偶々助けてもらったんだ。命の恩人ってやつだな」


「野盗に襲われただって! それで、怪我は?」


「ない。この通り無傷でピンピンしてるさ。すごかったんだぜ、そこの兄ちゃんが突然、林から現れたと思ったら目にも止まらぬ速さでばったばったと敵を切り伏せたんだ。いやぁカッコよかった。あの時の姿をお前にも見せてやりたかったよ」


勢いよく、母親がジェルドの頭を叩く。


「何がピンピンしてるだよ。アンタねぇ無茶をするのもほどほどにしろっていつも言ってるだろ? 元傭兵とは言え、もう若くないんだから逃げれるのなら逃げろってあれほど言ってるのにこの馬鹿ときたら……」


「でも、相手は素人だったから……」


「そんなの関係ないよ。アンタが死んだら誰が私たちの面倒を見るって言うんだい。ちょっとは父親としての自覚を持ちな」


「はい……」


母親はバアルたちの方に振り返ると、軽い足取りで近づいてきた。


「アンタたちがうちの馬鹿を助けてくれたんだね。すまないね、迷惑をかけたみたいで」


「あの馬鹿は私が説教しておくから、今日はゆっくりして行きな」


「ありがとうございます」


二人が礼を言うのと同時に、先程まで寝息を立てていたクリフが目を覚まし、耳を突き破るような泣き声をあげた。


「わ、どうしたのクリフ」


「おや、起こしちゃったかしら」


「たぶん知らない人を見て驚いたんだと思います。大丈夫……大丈夫だよクリフ」


「怖くない……怖くない」


それでも、クリフは泣き止まない。これほどまでに泣きわめくのは珍しいことだった。森にいた時もあまり泣かなかったクリフが、身体を揺らしながらみじろぎしている。


「おっぱいが欲しいんじゃないの?」


「じゃないのー?」


「おっぱい!」


「おっぱいー!」


「お、おっぱい……」


言われてみれば、森で見つけたあの時から、クリフは何も食べていない。このままでは空腹で死んでしまうだろう。でも、シアーシャには何もできない。


「その子も長旅でお腹が空いたんじゃないのかい?。ほら、男どもは見ちゃダメだよ」


「無理です……」


「ん?」


「私には無理なんです……」


「無理って?」


「私には、おっぱいが……おっぱいが出ないんです」


その言葉に空気の風向きが変わる。


「おいおい……乳が出ないって……そりゃあ」


「貸しな」


母親はそう言うと、クリフを抱き上げる。抱えていた赤ん坊を交換して、母親は胸元をめくり上げた。


夢中になって、クリフは母親の乳にしゃぶりつく。必死に乳を吸う姿を見て母親は笑みをこぼした。


「この子、随分と腹が空いてたみたいだね」


「乳が出ないのに良くここまで頑張ったもんだよ。大変だったね」


母親は優しい言葉を投げかけた。母親として、シアーシャと通ずる所があるのだろう。子供を三人も育てて、旦那と家を支えている。立派な人だ。彼女のような人こそが母親と呼ばれる存在なのだろうと、シアーシャは思った。母親と言っても姿形はそれぞれまるで違う。その姿は千差万別。ちゃんと愛情を持って子供を愛し、夫を愛することがどれだけ大変なのか、想像もできない。だからこそ、尊敬する。 


「それにしても外は冷えるねー。この子もよく我慢したもんだよ。お父さんとお母さんを困らせないように頑張ってたんだね」


「さ、こんな寒いところで立ち話するより、暖かい家の中に入ろう。風邪をひいたら冗談にもならないからね」


女は子供たちを連れて家の中に入る。それに続くようにシアーシャとバアルも家の門をくぐるのだった。

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