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ひとりぼっち⑤

馬車に揺られてどのくらい経ったのだろう。太陽はとうに真上に登り、森を抜け、キラキラと光を帯びた雪原が見渡せる。


「それにしても、アンタらは運が良かったな。俺がいなきゃあの森を出るのに丸一日はかかる所だったんだ。赤ん坊ひとり連れて森を抜けるのは簡単じゃない。ちょうど、俺が襲われてなけりゃアンタらには出会えなかった。これも運命って奴なのかね」


「そういえば名前を聞いてなかったな。俺はジェルドだ」


「バアル。それとこっちが妻のシアーシャです」


「バアルにシアーシャだな。よし、覚えた。あとは……」


「その子、名前はなんて言うんだい?」


ドキリと、心臓が掴まれる感触がした。


「この子の名前……」


考えるように、シアーシャは黙り込む。それをバアルは見守った。


「クリフ……」


「クリフか……良い名前じゃないか」


「その子はどっちかって言うと兄ちゃんに似てるんだな。髪色も同じだし輪郭も兄ちゃんに似てハンサムだしな。けど、目元はお嬢ちゃんに似てるな。美男美女同士だからなのかね、顔の作りがうちとは大違いだ」


「しかし、普通このくらいの歳なら、泣き喚いても仕方ないのに、随分と落ち着いている子だな。うちにもひとりチビがいるがこれが朝から晩までずっと泣き続けるんだ……まぁそこが可愛いんだけどな」


ふと、クリフに視線をやる。馬車に揺られて心地いいのか、今はスヤスヤと眠っている。


「ジェルドさんにも、ご家族が?」


「おう。カミさんと、ガキが三人だ。毎日大変だよ。朝起きれば機嫌がわるいし、朝食を食べようとしない、おまけに着替えも拒否してばっかりで、俺もカミさんもまいってるんだよ。一体誰に似たのかね」


そうは言いつつ、ジェルドの表情には笑みが溢れていた。子供を育てるのがどれだけ大変なのか……想像するのは簡単だが、いざ自分がその立場になるとその厳しさを痛感するだろう。きっとこの先、その厳しさが何度もぶつかってくる。その覚悟を背負える人間だけが、親と呼べる存在なのかもしれない。


「お、そろそろ着くぞー」


馬車から顔を覗かせる。広い雪原には藁葺き屋根の家が密集していた。


外では家畜に餌をやる人や屋根の雪を掻き分ける人、雪遊びする子供たちで溢れていた。


「あそこが俺の家だ」


そう言って、ジェルドは遠くに見える小さな小屋を指刺す。


馬車に揺られながら、シアーシャとバアルは外の変わらない風景をただ静かに眺めていた。


「ただいまー!」


ジェルドは村人とすれ違うと、大きな声で挨拶をする。それに気がつく人間はみな一様に笑顔を作り、手を振る。


きっと彼と言う人間だから、村の人もこんなに明るくなるのだろう。ほんの少しだけ、ジェルドと言う人間を知ることができた気がする。ほんの少しだけ……けれどもその小さな変化が人と言うものを作り上げているのだと、バアルは思った。

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