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第9話「見せられた残酷な真実」
いつものように彼を待っていた。
少し高いヒール。
少し濃いメイク。
少し無理した笑顔。
全部、彼に会うための努力。
なのに彼は来なかった。
何時間待っても。
「今日は体調悪いらしいよ」
スタッフがそう言った。
信じた。信じたかった。
でも悪い勘ほど当たる。
トイレの前。
扉の隙間。
聞きたくない声が聞こえてしまった。
「マジで産まれたの?男?女?」
彼の弾む声。
「オレの子だよ」
その言葉が刃になって
耳から胸へ突き刺さる。
世界がぐらりと傾いた。
足元がグラスみたいに割れた。
新しい命が喜びの光になるはずなのに
わたしには闇にしか見えなかった。
違う女。
その腕に抱かれる赤ちゃん。
そこにわたしの居場所は無い。
笑っていた。
幸せそうに。
わたしの知らない彼がいた。
「ちょっと待って待って、嫁にはバレてないよな?」
嫁。
その単語が、最悪の追い討ちだった。
わたしは知らなかった。
いや、知らないふりをしていただけかもしれない。
彼は最初から
誰かのもの。
わたしは都合よく、奪われるお金と時間。
恋人じゃない。
未来なんてなかった。
タバコを強く吸うと
涙より先に煙が溢れた。
苦しくなった肺の痛みは
心の痛みに少し似ていた。
でもまだ、この時のわたしは
信じていた。
「きっと誤解だ」
そう思うことが
一番残酷だった。




