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第5話「都合のいい女」


「ねえ、今日ちょっとだけ遅れる」

そのメッセージが来るたびに

わたしは鏡の前で笑顔の練習をした。


彼の都合に合わせることが

恋だと信じていた。


待つ時間は

彼を想う時間。

焦りさえ愛の証拠。


そう思い込んでいた。


彼が仕事の愚痴を話せば

自分の悩みなんて飲み込んだ。

ただ聞いて、肯定して、褒めた。


「君ってホント、楽だよな」

その一言が

褒め言葉に聞こえてしまった。


彼は笑って、わたしは夢を見る。


「君がいると助かる」

その言葉に救われて

財布が軽くなる音には気づかないふり。


都合がいい。

でも、それでよかった。


いつか本命になれると

本気で思っていたから。


彼のためなら

どれだけ無理しても苦しくなかった。

苦しさすら、愛だと錯覚できた。


来ない約束を信じ続ける夜。

膝の上の鞄には

帰りのタクシー代しか残っていない。


「ごめん、今日は無理。また今度埋め合わせする」


携帯画面に浮かぶ五文字。

埋め合わせなんて一度も無いのに。


それでもわたしは返信する。

「気にしないで、大丈夫だよ。」


その瞬間

わたしは確かに

彼にとって一番都合がいい女になった。


彼は笑顔。

わたしは愛だと信じている。


それが一番痛い。



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