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第3話「彼が教えた悪い癖」
煙草を吸うたびに
彼の笑顔が思い出せた。
「ほら、指はこう」
手首を軽く添えられるだけで
心臓が跳ねる。
彼は、わたしの癖を
ひとつずつ作っていった。
頬杖をついて彼を見る癖。
名前を呼ばれるだけで
嬉しくなる癖。
夜が来るほど会いたくなる癖。
「俺がいないとダメになるよ」
冗談めかして言う声に
むしろ安心してしまっていた。
彼はわたしの寂しさを知っていた。
弱さを見透かしていた。
だから、触れ方が絶妙だった。
離れられなくなるギリギリを
完璧に計算していた。
毎回の指名が
愛の証だと誤解した。
金額が、想いの深さだと
思い込むようになっていった。
気づけば
煙草の煙だけが
わたしを落ち着かせていた。
彼が教えてくれた癖は
みんな悪かった。
でも、全部好きだった。
「もし俺が消えたら困るでしょ?」
彼は笑った。
その言葉は、未来の予告状だった。
わたしはまだ気づかず
彼の横顔に
恋の続きを求めていた。




