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第13話「夜の底で呼吸する」
夜は、いつもより重かった。
窓の外のネオンも、街のざわめきも、すべて遠くに感じる。
呼吸だけが、確かに自分の存在を告げる。
ベッドに横たわり、煙草に火をつける。
煙は空気に溶ける前に、胸の奥まで潜り込む。
苦くて、熱くて、懐かしい味。
彼といた日々の残像が、肺に絡みつく。
息を吐くたび、痛みも少しずつ溶けるような気がする。
でも完全には消えない。
心の底に、ずっと残る黒い影のように。
涙を流しても、夜は黙って受け止めてくれる。
誰にも見せない弱さを、夜だけは許してくれる。
悲しみを抱えたまま、ただ呼吸する。
それだけで、まだ生きている証になる。
街の音が途絶えると、孤独が濃くなる。
だけど、孤独の中で生きることが
いつしか力になることも知った。
夜の底で、痛みと共に呼吸する。
まだ愛は消えていない。
でも、少しずつ、自分の時間も取り戻していく。
彼の影を追いかける日々から
自分の呼吸を感じる日々へ。
小さな一歩だけど、夜はそれを見守ってくれる。
消えない痛みを抱えながらも、わたしは今日も生きている。




