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第12話「自覚」
財布の中身を数えるたびに、心が少しずつ重くなる。
あの笑顔の裏に隠されていた現実を、ようやく理解し始めたからだ。
借金も、贈り物も、奢られたディナーも――
それは「愛」ではなかった。
ただの計算だった。
わたしはその数字を支えるためのATMだった。
あの日、彼に「ありがとう」と言った自分を思い出す。
震える手でお金を出して、笑顔を見せて。
心の中で泣きながら、全ての価値を彼の手のひらに握らせていた。
息が詰まる。
怒りも悲しみも、悔しさも、全部混ざって胸が痛む。
「なんで…こんなに騙されてたんだろう」
でも不思議と、憎む気持ちは薄い。
憎む力すら、疲れ果ててしまったのかもしれない。
残るのは、冷たい現実の感触だけ。
愛されていなかったという痛み。
だけど、痛みの奥に、生きていた証があることも知った。
ATMだった自分に、ようやく名前をつけられる。
「私は、これでも愛した」と。
それだけでも、少しだけ自由になれる気がした。




