第10話「燃え残る未練」
壊れたはずの心には、まだ形の残骸が転がっている。触れれば痛む。放っておいても疼く。まるで消火しきれない火が、胸の内側で赤く燻っているみたいだった。
別れを選んだはずなのに。
終わらせたはずなのに。
手を離す時、あの日のままの笑顔が頭をよぎった。
捨てたのではない。
捨てられたのでもない。
でも、どちらかが少しだけ勇気を持てたなら、結末は違ったのだろうか。
「忘れたいのに」
呟いた声は夜に溶けて、自分にだけ跳ね返ってきた。忘れられないのは、まだ期待を捨てきれていない証拠だと心が笑った。
スマートフォンを開けば、消したはずの思い出が勝手に蘇る。通知も何も来ていないのに、画面の黒に映る自分の目の奥には、いまだに彼が棲んでいる。
未練は幽霊みたいにしつこい。
心の隙間に爪を立てて、生き残ろうとする。
愛した記憶は嘘じゃない。
それでも今さら戻れない。
だからこそ苦しいのだ。
「ちゃんと終わらせなくちゃ」
そう言いながら、心は逆の方向へ走っていく。終わりたくない、終わらせないで、と。声にならない叫びが胸を焼く。
彼の笑った顔、拗ねた顔、泣いた夜。
幸福も後悔も、ぜんぶまとめて抱きしめていた時の自分が、まだ体温を残している。
一度燃え上がった愛は、灰になるまで時間がかかる。
まだ熱い欠片を、私はどうすればいいのだろう。




