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騎士団長の過去を知る

 ライバル店との対決から、数日が経った。

 私が心を込めて焼いたパンは、騎士団の心の渇きを癒した。その小さな出来事は、私の心を「ひらひら……」と舞い上がらせ、この街での私の日常を、温かく豊かなものに変えていった。カフェの日常は、まるで温かい毛布に包まれているかのようだった。


 アルベルトは、毎日変わらずカフェを訪れた。彼は、パンを手に取ると、その指が微かに震える。その小さな仕草が、彼にとって、このパンがどれほど心の支えになっているかを物語っていた。それは、私が東京で、孤独に耐えながら、完璧を追い求めていた頃には知らなかった、心の充足感だった。


 この温かい日常が、いつまでも続けばいいのに、と私は心から願った。

 だが、嵐は、常に静けさの中に潜んでいる。

 その日の閉店後、アルベルトは、私をじっと見つめ、静かに、しかし、はっきりと告げた。


 「……ついてきてくれ。俺の、故郷へ」

 彼の言葉に、私の心臓は「どくん!」と大きく跳ねた。それは、彼が心を開き、最も秘めていた部分を、私に見せようとしている証拠だった。彼の無愛想な表情の下に潜む、深い決意と、わずかな緊張が、彼の瞳の奥で「チカチカ……」と点滅しているのが、私には見えた。


 私たちは、馬車に乗り、夜の道を駆けた。馬車の窓から見える景色は、次第に変わっていく。温かい光を放っていた街の明かりが、遠ざかっていく。代わりに、月明かりに照らされた、無機質な建造物が、まるで「モノクロの彫刻」のように立ち並び始めた。


 しばらくして、馬車は、巨大な門の前で止まった。門をくぐると、そこには、辺境の街からは想像もつかない、冷たい「完璧」の街が広がっていた。建物は全て、完璧な魔法陣の形をしており、まるで、全てが計算し尽くされた「巨大な脳」のようだった。


 「……ここは?」

 私の問いに、アルベルトは、重い口を開いた。

 「……俺の故郷。そして、カスパルの故郷だ」

 彼の言葉に、私は息をのんだ。

 「完璧な魔法使い」と「完璧な騎士」。二人の「完璧」への執着の源が、同じ場所にあるという事実に、私の心臓は「どきん!」と大きく脈打った。


 私たちは、静かに、街を歩いた。街中には、人も、そして、温かさもなかった。ただ、完璧な幾何学模様が、冷たく、そして、美しく輝いているだけだった。


 「……俺は、この街で、完璧な騎士となるべく育てられた」

 アルベルトの声は、まるで「硬い石」のように、感情を持っていなかった。

 彼の言葉から、彼の過去の記憶が「走馬灯のように」私の中に流れ込んでくる。



 幼い頃のアルベルトは、剣術の訓練に明け暮れていた。一つでも失敗をすれば、「完璧ではない」と罵られた。彼のそばには、いつも、幼い妹がいた。彼女は、魔法の詠唱者だった。


 ある日、街に巨大な魔物が現れた。アルベルトは、完璧な作戦を立て、魔物を迎え撃った。だが、その完璧な作戦は、彼の妹の犠牲を前提としたものだった。


 「アルベルト……なぜ? なぜ、私を……?」

 妹の声は、彼の心を「きりきり……」と締め付けた。


 その瞬間、彼の完璧な思考回路が「がちゃがちゃ……」と音を立てて崩れ去る。彼の脳裏には、妹の絶望に満ちた瞳と、彼女が発した、たった一つの魔法が焼き付いていた。

 その魔法は、この街の「完璧な魔法」とは違い、彼の心を「ちくり……」と刺した。それは、彼女が「心を込めて」放った、たった一つの魔法だった。


 その魔法の光は、魔物の攻撃を「がちゃり……」と受け止める。だが、それは、完璧ではなかった。そして、その魔法は、彼女の命を吸い取っていった。



 「……俺の完璧は、妹の命を奪った」

 アルベルトの声は、ひどく掠れていた。

 「そして、カスパルは、彼女の兄だった。彼は、俺の完璧を、最も憎んでいる」


 「……」


 彼の告白に、私の心臓は「ずしり……」と重くなった。

 私は、彼の手を、静かに握りしめた。

 「私も……完璧を追い求めて、心を殺しました」

 私は、自分の過去を語り始めた。


 東京で、完璧なパティシエとして、孤独な日々を送っていたこと。完璧を追い求めるあまり、心を「からから……」と乾かしてしまったこと。

 「完璧な作品」は、誰の心も温めなかった。

 「……でも、心を込めることは、誰かの心を温める力になる」


 私は、そう言って、バッグから、小さな紙袋を取り出した。

 「……どうぞ」

 中には、私の焼いたパンが入っていた。

 アルベルトは、パンを手に取ると、その温かさに、彼の無愛想な顔から、わずかに「ぽかぽか……」と湯気が立ち上る。それは、彼の心の奥底にある、凍てついた心が「とろり……」と溶け出す瞬間だった。


 「……君は、俺の想像を、遥かに超えていた」

 アルベルトの言葉は、普段の無愛想な声とは違い、どこか「とろり……」と甘く、私の心を温めた。


 彼は、静かに、私の手を握りしめる。

 それは、言葉よりも雄弁な「告白」だった。

 私の「静かに暮らしたい」という願いは、もはや、「あなたと共に、この世界の闇に立ち向かいたい」という、新しい、そして強い願いへと「とろり……」と溶け出したのを感じた。


 それは、ただの恋心ではなかった。それは、互いの使命を共有し、共に生きる、新しい物語の始まりだった。


お読み頂きありがとうございます。

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この小説は、単なる恋愛ではなく 文芸、ファンタジー、スローライフ、グルメなど多岐にわたるジャンルを詰め込みました。その為、色々な方に楽しんでもらえると思っています。


どうか、宜しくお願いします。

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