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騎士団長との急接近

 ライバル店との対決から、数日が経った。

 私が心を込めて焼いたパンは、騎士団の心の渇きを癒した。その小さな出来事は、私の心を「ひらひら……」と舞い上がらせ、この街での私の日常を、温かく豊かなものに変えていった。カフェの日常は、まるで温かい毛布に包まれているかのようだった。


 アルベルトは、毎日変わらずカフェを訪れた。彼は、パンを手に取ると、その指が微かに震える。その小さな仕草が、彼にとって、このパンがどれほど心の支えになっているかを物語っていた。それは、私が東京で、孤独に耐えながら、完璧を追い求めていた頃には知らなかった、心の充足感だった。


 この温かい日常が、いつまでも続けばいいのに、と私は心から願った。

 だが、嵐は、常に静けさの中に潜んでいる。

 その日の午後、カフェの閉店後。私が片付けをしていると、店内の皿が「カタカタ……」と震え始めた。


 「……?」


 私は、首を傾げた。そして、微かに、甘い香りがすることに気づいた。それは、王都の貴族、カスパルの店で感じた、あの「完璧なスイーツ」の香りだった。


 「……やはり、まだ終わっていなかったか」

 カフェのドアが開き、アルベルトが入ってきた。彼の顔は、いつもの無愛想な表情とは違い、どこか「ぐつぐつ……」と煮えたぎるような、鋭い光を宿していた。


 「……どういうことですか?」

 私の問いに、彼は、静かに答えた。

 「これは、王都の貴族が仕掛けた、より巧妙な『魔力の吸収』だ。このカフェの『温かさ』を、奴らは狙っている」


 「……」


 私の心臓は「きゅっ……」と縮こまる。

 「今夜、俺はここに泊まる。君を、そして、このカフェを守るために」

 彼の言葉に、私は、何も言えなかった。ただ、彼の隣にいることだけが、私にとって、唯一の「安心」だった。


 私たちは、閉店後のカフェで、二人きりになった。

 窓の外は、もう真っ暗だ。カフェの照明は、微かに「チカチカ……」と点滅している。


 「……怖いですか?」

 アルベルトが、静かに尋ねた。

 「はい。でも……」

 私は、言葉を詰まらせた。

 「……あなたがいれば、大丈夫な気がします」

 私の言葉は、静かに、そして、はっきりと、彼の心に「じわり……」と染み渡っていく。

 「……そうか」


 彼は、それだけ言うと、再び、静寂が訪れた。

 その夜、私たちは、ほとんど会話をしなかった。だが、その沈黙は、決して「空っぽ」ではなかった。それは、二人の間に流れる、言葉にはならない、温かい「心の交流」だった。



 「馬鹿な……! なぜだ、なぜ、私の完璧な魔法が、あのカフェには通用しない?」

 彼は、苛立ちながら、魔法の装置をいじる。

 「あの女……。彼女の心を込めたパンが、私の『完璧』を打ち破った。だが、私は、この研究を諦めるわけにはいかない」


 彼の脳裏に、過去の悲劇が「がちゃがちゃ……」と音を立てて蘇る。

 ---


 私は、完璧な魔法使いとして、完璧な詠唱を放った。だが、その魔法は、魔物の大群を前に、全く効果がなかった。

 「貴様の『完璧』は、なんの役にも立たない」

 その罵声が、私の心を「ちくちく……」と刺した。

 私は、この世界の「大地の魔力」を、完璧に操ることで、自分の無力さを克服しようとしていた。

 ---


 「完璧」という名の、鎖。

 それは、私の心を「きりきり……」と締め付けた。

 ---



 夜が更け、魔法の波動が最高潮に達する。「甘い香り」がカフェ全体を包み込み、店の「温かさ」が「ひゅう……」と吸い取られていくのが、五感で感じられた。


 「心春、下がれ!」

 アルベルトが、叫んだ。彼の完璧な戦術が、「がちゃがちゃ……」と音を立てて崩れていく。

 「違います! 騎士団長、そこではありません!」


 私の声は、彼の耳には届かない。

 「この『香り』が、魔法の源です。この香りが、一番濃い場所を、探してください!」

 私の言葉に、アルベルトの完璧な思考回路が「ぱりん!」と音を立てて砕け散った。


 彼は、私の言葉を信じ、五感を研ぎ澄ます。

 「……この音は?」

 「魔法の流れの音です。聞こえませんか?」

 「……いや、聞こえる。まるで、小さな川のせせらぎのようだ」


 彼の言葉に、私は、小さく微笑んだ。

 私たちは、彼の「完璧な力」と、私の「心を込めた直感」を融合させ、魔法のサイフォンを無事停止させた。


 夜が明け、朝日が差し込むカフェの中で、私たちは疲れ果てた表情で座り込んだ。

 「……君は、俺の想像を、遥かに超えていた」

 アルベルトの言葉は、普段の無愛想な声とは違い、どこか「とろり……」と甘く、私の心を温めた。


 彼は、静かに、私の手を握りしめる。

 それは、言葉よりも雄弁な「告白」だった。

 私は、自分の「静かに暮らしたい」という願いが、「あなたと共に、この世界の闇に立ち向かいたい」という、新しい、そして強い願いへと「とろり……」と溶け出したのを感じた。


 それは、ただの恋心ではなかった。それは、互いの使命を共有し、共に生きる、新しい物語の始まりだった。


お読み頂きありがとうございます。

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この小説は、単なる恋愛ではなく 文芸、ファンタジー、スローライフ、グルメなど多岐にわたるジャンルを詰め込みました。その為、色々な方に楽しんでもらえると思っています。


どうか、宜しくお願いします。

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