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ライバル店との対決

 王宮の宴から、数日が経った。

 私が心を込めて焼いたパンは、騎士団の心の渇きを癒した。その小さな出来事は、私の心を「ひらひら……」と舞い上がらせ、この街での私の日常を、温かく豊かなものに変えていった。カフェの日常は、まるで温かい毛布に包まれているかのようだった。


 アルベルトは、毎日変わらずカフェを訪れた。彼は、パンを手に取ると、その指が微かに震える。その小さな仕草が、彼にとって、このパンがどれほど心の支えになっているかを物語っていた。それは、私が東京で、孤独に耐えながら、完璧を追い求めていた頃には知らなかった、心の充足感だった。


 この温かい日常が、いつまでも続けばいいのに、と私は心から願った。

 だが、嵐は、常に静けさの中に潜んでいる。

 その日の午後、店主が仕入れに出かけている間に、カフェの前に、再び「至高の王都カフェ」の看板が掲げられた。今回は、エリザベートではなく、王都の紋章を身につけた、いかにも厳格そうな男が、オーナーとして名乗りを上げた。


 「……どうして、また」

 私の心臓は「きゅっ……」と縮こまる。

 閉店後、私は、カフェを訪れたアルベルトに、そのことを話した。


 「……王都では、最近、ある種の『完璧なスイーツ』が流行している」

 アルベルトの言葉は、普段の無愛想な声とは違い、どこか重く、私の胸を「ずしり……」と押さえつけた。


 「それは、単なる流行ではない。王都の貴族たちが、この辺境の街で、何かを企んでいる証拠だ」

 「……どういうことですか?」

 彼の言葉に、私は息をのんだ。

 「この街は、この国の『大地の魔力』が最も集まる場所だ。そして、王都の貴族は、その力を、自分たちの研究のために独占しようとしている」


 「……」


 アルベルトは、報告書を差し出した。それは、王都の貴族たちの間で、古代魔法の研究が進んでいることを示すものだった。

 「彼らは、人々の心を惑わし、この街の『温かさ』を奪おうとしている」


 「……」


 彼の言葉に、私の心の中で、二つの感情が「がっちゃん……がっちゃん……」とぶつかり合った。一つの感情が「ひゅう……」と風を切り、もう一つの感情が「どすん」と重く落ちる。その不協和音は、静かに「むずむず」と胸を掻きむしり、やがて「ぐつぐつ」と煮え滾るような決意へと姿を変えていった。


 「……私に、できることはありますか?」

 私の言葉に、アルベルトの瞳が、驚きと、そして確信に満ちた光を宿した。

 「……君の力が必要だ」

 私は、一人、再び「至高の王都カフェ」の前に立っていた。


 ドアが「カラン……」と静かに開く。

 内装は、以前にも増して豪華になり、完璧なまでに計算し尽くされていた。だが、私には、その「完璧さ」が、まるで「完璧なプラスチック」のように、冷たく、無機質に見えた。


 「ようこそ、いらっしゃいました」

 ライバル店のオーナー、王都の貴族、カスパルが、完璧な笑顔で、私を出迎えた。



 私は、この辺境の地で、かつて王都で失われた「古代魔法」の力を探していた。その力は、完璧な魔法の詠唱者である私にとって、失われた「力」を取り戻す鍵となる。


 私は、幼い頃から、完璧な魔法使いであることを求められてきた。完璧な魔法、完璧な詠唱、完璧な立ち居振る舞い。一つの失敗も許されない。


 「カスパル。お前は、この国の未来を担う、完璧な魔法使いとなるのだ」


 そう言われた言葉が、私の心を「きりきり……」と締め付けた。

 だが、私の故郷で、ある悲劇が起きた。


 魔物の大群が村を襲った。その時、私は、完璧な「魔法」を放つことができなかった。

 「貴様の『完璧』は、なんの役にも立たない」

 そう罵られた言葉が、私の心を「ちくちく……」と刺した。


 「完璧な私」を拒絶した世界への、私の復讐。それが、この辺境の街で、完璧なカフェを作り上げることだった。


 ---

 私は、彼の完璧なスイーツを口にした。

 それは、以前よりも洗練され、完璧な味覚増強剤が使われていた。だが、私の脳裏に、五感を駆使した映像が、まるで「映画」のように、一瞬で流れ出した。



甘い香りの奥に、「ちくちく……」と舌を刺すような、わずかな違和感。舌に「ざらり」と残る微かな痺れ。それは、この世界には存在しない、東京の化学物質の匂いだった。


 そして、その完璧さの奥に潜む、「からから……」と乾ききった彼の心が、私の心を「ひりひり……」と刺激した。



 私は、バッグから、小さな紙袋を取り出した。

 「……どうぞ、私のパンです」

 私がそう言うと、彼の顔から、完璧な笑顔が「ぱりん!」と音を立てて砕け散った。

 彼は、私のパンを手に取ると、警戒しながら、一口食べた。


 その瞬間、彼の脳裏に、心春の過去の記憶が「走馬灯のように」流れ出す。完璧を追い求めて、心を失った心春の姿。一つの失敗も許されない、ピリピリとした空気。


 「なぜ……完璧を捨てた?」

 彼は、まるで、自分の過去を問うかのように、私に尋ねた。

 「完璧は、私の心を殺した。でも、心を込めることは、誰かの心を温める力になる」

 私の言葉は、静かに、しかし、彼の心の奥底に「じわり……」と染み渡っていく。

 彼は、言葉を失い、ただ、パンを握りしめていた。


 ---

 事件は解決した。

 カスパルは、自分の「完璧」への執着が、かつての悲劇から来るものだったことを悟った。彼は、心春の「心を込める」という新しい価値観を受け入れた。


 だが、彼は、去り際にこう言った。

 「……この世界の『大地の魔力』を巡る争いは、まだ終わっていない。いずれ、この街にも、大きな嵐が来るだろう」


 私は、カフェに戻り、アルベルトに、そのことを話した。

 アルベルトは、私の手を、静かに、そして、力強く握りしめた。

 「……大丈夫だ。俺が、君を守る」

 彼の言葉は、私の心を「ぽかぽか……」と温める。


 私の「静かに暮らしたい」という願いは、もはや、「あなたと共に、この世界の闇に立ち向かいたい」という、新しい、そして強い願いへと「とろり……」と溶け出した。


 それは、ただの恋心ではなかった。それは、互いの使命を共有し、共に生きる、新しい物語の始まりだった。


お読み頂きありがとうございます。

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この小説は、単なる恋愛ではなく 文芸、ファンタジー、スローライフ、グルメなど多岐にわたるジャンルを詰め込みました。その為、色々な方に楽しんでもらえると思っています。


どうか、宜しくお願いします。

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